刺繍作家・a t s u m iさん(後編)~続ければ続けるほど刺繍は面白くなっていく

”つくる人”を訪ねて
2016.08.11

独自の世界観を刺繍で表現する刺繡家・a t s u m iさんのおはなし、つづきです。

 

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photo:有賀 傑 text:田中のり子

 

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大学では平面的なグラフィックや映像などを学んだというa t s u m iさん。在学中から「自分にはデザインの世界は向いていないな」けれども「何かをつくる人になりたい」という漠然とした思いがあったといいます。卒業後は、アパレルメーカーに就職したものの1年で退職。その後、母校で助手的な仕事をするようになりました。夏休みや冬休みがあり、時間的にも余裕がある仕事だったので、並行しながら布や刺繍を組み合わせたアート制作も行っていましたが「これだ」という手ごたえがないまま、数年の時間が過ぎていきました。

将来に対する漠然とした不安を持ちつつ、「ここに長くいてはいけない」と思い立ち、27歳のときに後先を考えずに退職。派遣社員をしつつ、創作活動を続けていたそうですが、ここでa t s u m iさんにとって、「人生最大の危機」が訪れます。不景気のあおりを受け、何と「派遣切り」にあって職を失ってしまったのでした。

「しっかりしているように見られがちだけど、どこかのんびりもしていて、『人生どうにかなる』と思っていた部分がありました。けれども『自分でどうにかしないと、どうにもならない!』と、そこでようやくお尻に火がついたんです」

 

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「自分は本気で、刺繡作家としてやっていく」という覚悟のようなものが芽生え、ホームページや名刺を作ったり、そこに掲載するための作品作りも集中して行いました。

ただ「好き」という思いだけでなく「自分は刺繍だ」と思えたのは、「思い込みの強さがあったかもしれない」とa t s u m iさん。そして、それまで「少しかじっては、分かったような気になって、次第に飽きて……」を繰り返していた自分が、刺繍なら「続ければ続けるほど、面白くなりそう」という予感があったと言います。

「刺繍って手間も時間もかかるし、同じ姿勢を何時間も続けるから、本当に本当に大変なんです(笑)。その代わりある程度の計画性があれば、やった分だけ返ってくるような誠実さがあるんです。刺した人の手(特徴)が出るところも『私がやっている』という実感が持てて、精神衛生上にもよかったのかもしれません」

 

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「向いていない」とすぐにあきらめたというグラフィックデザインへの道ですが、a t s u m iさんの作品には、平面構成や色使いなど、随所にグラフィック的なセンスが表れています。先が見えずにもがいていた時期の学びも「刺繍」という自分にしっくりくる表現手段を手に入れたことで、大きな糧となって創作を後押ししてくれているようです。

 

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こちらは「ここでしか買えないモノ」をテーマにしたオンラインセレクトショップ「密買東京」で販売した刺繍デザイン。河豚やフクロウ、蛾などが、リアル、かつユーモラスに表現されています。刺繍だからこそできること、刺繍だからこそおもしろいことを常に探究しているa t s u m iさんならではの作品です。

 

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そんなa t s u m iさんが、もの作りで影響を受けた本が『ミナを来て旅に出よう』。「ミナ ペルホネン」のデザイナー・皆川明さんが、自らのクリエーションについて記した一冊です。

「この本の中に『人はいつも“ミナっぽいよね”と括りたがるけれど、自分はそれをいつも壊していきたいと思っている』という皆川さんの言葉があるんです。もの作りの大先輩の言葉ですが、それを読むたびに、常に自分も初心に戻れる気がするんです」

 

エンブレムや文字モチーフの刺繍など、私たちが「a t s u m iさんらしい」と感じられるイメージがあることは、作り手として本当に素晴らしいこと。けれど一方で、それだけに満足せず、常に新しい挑戦を続けていきたいと考えているからこそ、a t s u m iさんの作品は静かだけれど力強く、いつも新鮮に映るのかもしれません。

 

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いつかのどこかの国にありそうで、どこの国のどの時代でもない。そんなa t s u m iさんの作品イメージは、それまで見た本や映画、旅先の風景などの断片を連想ゲームでつなげるような感じで生まれていくと言います。最近見た映画で影響を受けたのは、ウェス・アンダーソン監督の『グランド・ブタペスト・ホテル』。

「映画を観ていても背景の壁紙や床の模様、服の色使いやエンドロールの文字使いなどばかり見ていて、ストーリーがまったく頭に入ってこないんです(笑)。そこで見たモチーフをそのまま刺すのではなく、いったん心の奥底に沈んで、あるとき醸造された断片がひょっこり浮かび上がってくる感じ。私、妄想癖があって、ずーっとひとりであれこれ考えながら過ごしていられるんです」

少し前までは、10月に発売される新刊の制作作業に没頭していたというa t s u m iさん。これからは映像と刺繍を組み合わせた作品作りなど、さまざまな作り手とのコラボレーションにも挑戦してみたいと語ります。

「そして時間をかけて、行ける限り、いろんな時代いろんな民族の世界中にある刺繍を見てまわりたいですね。きっと自分にとってかけがえのない栄養になると思いますし、それを見ていくことで、また自分のもの作りがどんな風に変化していくのかとても楽しみなんです」

 

 

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Profile

a t s u m i(あつみ)

多摩川美術大学卒業後、アパレルメーカー、同大学に勤務ののち、刺繍作家としての活動を始める。著書に『刺繍のはじめかた』(マイナビ)『刺繍のいろ』(BNN新社)『ことばと刺繍』(文化出版局)など。2016年10月にエンブレムをテーマにした新刊が文化出版局から発売予定。http://itosigoto.com/

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