花生師 岡本典子さん(前編)~かわいいいけど格好いい、花の魅力を引き出す

”つくる人”を訪ねて
2016.10.24

雑貨からおいしいものまで、衣食住にまつわるさまざまな“つくる人”を訪ねるマンスリー連載、今回は新刊『花生活のたね』(エクスナレッジ刊)も好評な、花生師 岡本典子さんのアトリエを訪ねました。

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Photo:有賀 傑 text:田中のり子

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9月の半ば、素敵な本が届きました。著者は、展示やイベントでもひっぱりだこ、雑誌のページをめくっていると「このページの花アレンジは誰?」と、つい手に止まるような印象的なフラワースタイリングを数多く手掛けている岡本典子さん。彼女の初の著書、『花生活のたね』です。

 

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本は「花1本からはじめよう」というメッセージからスタートし、岡本さんが初めてフラワーショップを任されたとき、市場では「花束が作りにくい」との理由からB級品とされている、茎が曲がった花を多数仕入れたエピソードを紹介しています。曲がっているほうが飾ったときに動きが出るし、何より自然に近い姿で愛らしい。1本の小さな花からもたくさんの発見があり、心を豊かに潤してくれる存在であることがつづられています。

 

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一方で岡本さんの手掛ける作品は、いつもどこかドラマティックです。新しいのになつかしい、清楚なのに艶やか、可憐なのにちょっぴり毒もある。相反する要素が絶妙なバランスで共存しており、花々からは不思議なパワーが発せられています。

 

「花を飾るときはニュアンスのある色合いを選び、全体が自然なグラデーションになるようにつなげることが多いです」と、岡本さん。また、つやつやみずみずしい葉の中にカサッとした質感の花を入れたり、流線形の葉の中にコロンとした丸い実を効かせてみたり。質感やフォルムにメリハリを意識することで、豊かな表情を生み出しています。

 

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生花だけでなく、スワッグにしたり、標本のように額飾りにしたりと、ドライとなったあとの作品も、植物たちの命の輝きをとどめたように、エネルギッシュです。形や色、質感のおもしろさを存分に味わいつくし、愛しむ気持ちがこちらにも伝わってくるようです。

 

「私が好きな花材は、ドライになっても印象的なものが多いんです。以前花屋をしていたときも、店内にあまりにもドライをたくさん置いていたから、『ここはドライフラワー屋さんなんですか?』と尋ねるお客さんがいたほどでした(笑)」

 

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「ドライフラワーは、アンティーク雑貨のように、インテリアになじみやすい」と岡本さん。水を張った花瓶に生けなくていい分、飾り方も自由自在。だから、飾り方ひとつとっても、いろんな可能性を楽しめるところも魅力なのだそうです。自宅にも、仕事場であるアトリエにも、さまざまな表情をしたドライフラワーが飾られていました。

 

子どもの頃から長くダンスを習っていて、「将来はダンサーに」と夢見る少女だったという岡本さん。それと同時に、早いうちから「いつか海外で暮らしたい!」という願望も強かったそう。

 

「若い頃にありがちな勘違いなのですが、『日本は、ダサいな』とずっと思っていたんです(笑)。街並みを見ると建物はバラバラだし、空を見上げればそこらじゅうに電線があって雑多でまとまりのない風景で。一方、本や雑誌で見るアメリカやヨーロッパには夢のように美しい空間がたくさんある。その夢の空間の住人になりたいと思っていたんです」

 

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高校卒業後の進学にあたり、岡本さんのお母さまからあるアドバイスが。「踊りの世界は素晴らしいけど、一生ダンス1本で食べていくのは大変なこと。ダンスを続けながら、大学で学び、一度別の世界にも目を向けてみてはどう? たとえばあなたは植物が好きじゃない?」

 

その言葉を聞いたとき、岡本さんの脳裏に浮かんだのは、母方のお祖父さまの家にあった菜園の風景でした。ハットに葉巻、昭和の当時から「和室はいらない」と言うような、ハイカラで抜群のセンスを持っていたお祖父さま。そのお祖父さまが丹精されたその場所には、さまざまな野菜や花、木々が豊かに生い茂り、まるで絵本の中に登場する楽園のような空間だったそう。さらにお母さまも植物好きで、実家の庭は四季折々の植物たちが育ち、岡本さんにとっては、子どもの頃からそれらに囲まれていることが当たり前でした。

 

「確かに自分には、植物がない暮らしは考えられない」……そう気づかされて、園芸科のある短大に進学します。お母さまの策略(?)が功を奏したのか、一気に花と植物の世界にのめりこんだ岡本さん。短大卒業後はダンスではなく花について学ぶため、海外留学をすることとなったのでした。行き先はイギリス。

 

現地でも、岡本さんの花への情熱は高まるばかり。初めて応募したフラワーコンペティションで優勝するなど、当初からその才能の片鱗をのぞかせており、現地の人でも難しいとされる国家技能資格の上級を取得するなど、エネルギッシュに活動を続けていました。そんな英国滞在中の、岡本さんが忘れられないエピソードとは……。

 

“つくる人”を訪ねて 花生師 岡本典子さん(後編)につづきます

 

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Profile

岡本典子(おかもと・のりこ)

花生師。「Tiny N」主宰。恵泉女学園短期大学園芸生活学科卒業後、イギリスに留学し、花コンペティションにて多数の優勝・入賞を果たし、国家技能資格上級を取得して帰国。ゴトウフローリストに勤務後、アイ・スタイラーズの立ち上げを経て、二子玉川に自店を構える。2015年にアトリエ「Tiny N Abri」を三軒茶屋にオープン。テレビ・雑誌・広告などのフラワースタイリングほか、カルチャースクールの講師、婚礼や展示会、パーティの装花、イベント出店など多方面で活躍中。

肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。

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