織作家「hou homespun」上杉浩子さん(前編)~目指す質感で羊毛を使い分ける、丁寧に作られたとっておきの織物たち

”つくる人”を訪ねて
2016.12.14

雑貨からおいしいものまで、衣食住にまつわるさまざまな“つくる人”を訪ねるマンスリー連載、今回は手染め・手紡ぎ・手織りで織物を手掛ける上杉浩子さんにお話を伺いました。今の季節にぴったりな、あたたかなホームスパンの魅力について語っていただきます。

 

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Photo:有賀 傑 text:田中のり子

 

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冬になると、寒さがつらくなる半面「マフラーやストールでくるまれるのが楽しみ」と思う女性も多いのではないでしょうか? ふんわりやわらかな巻き物に包まれるのは、この季節ならではの楽しみ。そしてそれが、じっくりていねいに手間を掛けて作られた一枚であれば、なおさら。

 

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「hou homespun(ホウ・ホームスパン)」の名義で織物作品を手掛ける上杉さんは、主に羊の毛(ウール)を使い、ストールやマフラーを中心に製作を行っています。原毛そのままの色味を生かしたり、あるいは草木や化学染料を使って染めたりした毛を、紡いで糸を作り、織機を使って織り上げるのです。手染め・手紡ぎ・手織り……つまりは、すべての工程がハンドメイド。完成までに多くの時間と手間がかかるぶん、機械で織ったものにはない揺らぎや個性が生まれ、同じものはふたつとない織物ができ上がります。

 

ちなみに、写真のヘリンボーン模様のストールは、「メリノ」「ブルーフェイスレスター」「シェットランド」という3種の羊の毛を混紡したもの。それぞれの品種に特性があり、やわらかさや弾力など、目指す質感によって混紡の割合などを調整しているそうです。

 

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こちらは上杉さんが2010年の最初の展覧会に作った「シェットランド」×「メリノ」の混紡ストール。大判なので価格も高価となり、最後まで売れずに残ってしまったそうですが、実は個人的にいちばん好きだったという作品で、初個展の思い出とともに自分の手元に残すことにしたそう。使い続けるうちに毛玉もいっぱいできてしまったそうですが、すっかりやわらかくなり、草木染めならではの深みのある色味と相まって、何とも言えない味わいが生まれています。

 

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こちらは先月(2016年11月末)から京都の「kit(キット)」で開催されている個展に出品したミニマフラー。緯糸(よこいと)に撚りをかけていない「へび糸」という太い糸を使っているため、両端がまるでフリルのようになります。黒や紺など、重くなりがちな冬の装いをパッと明るく華やかに彩ってくれそうです。

 

「ホームスパン」とは、「Home(家)」で「spun(紡ぐ)」という言葉の通り、家畜である羊の毛を刈り取り、自家用に紡いで織ったのが始まり。その製作は、刈り取られた羊の毛からゴミを取り、洗いをかけることからスタートします。

 

「獣の毛なので皮脂や糞(!)などがこびりついていたりして、洗うのは結構大変なんですよ(笑)。洗い上がった毛をほぐして、必要があれば染めて。染め終わった原毛は『カード機』と呼ばれる大きな機械にかけて、紡ぎやすいように均一にほぐしていきます」

 

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ほぐされた羊毛は紡毛(ぼうもう)機にかけ、糸にしていきます。指の押さえ方や引き具合によって撚りの加減を変えることで、糸の太さも変わってくるそう。ちなみに機械で作られるニット製品は、「双糸」と呼ばれる2本の糸を撚り合わせた糸を使うことが多いですが、ホームスパンの布は「単糸」で織り上げるため、糸と糸の間にたくさん空気が含まれます。とても軽いのにあたたかなのは、そんなところに理由があるのです。

 

撚り終えた糸は蒸して整え、「座繰(ざぐり)」と「かせかけ」と呼ばれる道具を使って、糸車に巻きつけます。

 

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これらは機(はた)に糸をセッティングするための前作業。写真左の「座繰」は、上杉さんがホームスパンを始めた頃に、古道具屋で発見したもの。裏返すと、大正時代の日付けとともに、前の持ち主の名前が書かれていました。

 

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手織りは、機に糸を取りつけるまでもひと苦労。テレビなどでよく見られる、カシャンカシャンと音を立てながら織る作業以上に、このセッティングに時間がかかることが多いのだそうです。

 

「ホームスパンを始めた当初は私も、使う道具の多さにびっくりしました。『何でコレが必要なの?』『他のもので代用できないの?』と疑問に思っていましたが、いざ始めてみると、どれも欠かせない理由がちゃんとあるんですね。そして時代とともに改良はされているものの、基本的な仕組みは織機が発明されてからほとんど変わっていない。それってすごいことだよなあ……と、改めて思います」

 

織り終えて機から外したら、お湯の中で踏んだりもんだりの「縮絨(しゅくじゅう)」作業。これがまた辛くて気合いのいる工程だそうですが、それまでバラバラだった経糸(たていと)と緯糸が、ポン!と立ちあがって「一枚の布」になる瞬間が最後に訪れます。上杉さんにとってはそれが、何よりいちばん嬉しくて「今までの苦労がむくわれた!」と思う感動的な瞬間なのだそうです。

 

 

20代は大手企業で、旅行雑誌の編集の仕事をしていたという上杉さん。退職後はしばらくフリーランスで仕事をしていましたが、2004年に友人と岩手県を旅行したときに、ホームスパンの体験教室に参加しました。

 

「小学校では手芸部の部長で、『自分は手先が器用』と思い込んでいましたが、原毛を洗って染めて、紡いで織って、マフラーまでを3日間で完成させるというスパルタコースに参加したら、あまりの自分のできなさ具合にびっくり。でも妙に後を引いて『くやしい、もっとちゃんとやりたい』『この先にあるものを、もっと知りたい』と思ってしまったんです」

 

“つくる人”を訪ねて~織作家「hou homespun」上杉浩子さん(後編)に続きます

 

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Profile

上杉浩子(うえすぎ・ひろこ)

旅行雑誌の編集者を経て、フリーランスの編集・ライターとして独立。東京「清野工房」でホームスパンを学び、2010年より「hou homespun」の名義で個展を開始。編集を行った本に奥谷まゆみ著『骨盤育児』(京阪神エルマガジン社)、謝花三千代著『がちまい家のオーガニックな焼き菓子』(KADOKAWA)など。http://www.hou-homespun.com/

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