織作家・「hou homespun」上杉浩子さん(後編)~目指す質感で羊毛を使い分ける、丁寧に作られたとっておきの織物たち

”つくる人”を訪ねて
2016.12.15

寒いこの時季にぴったり! ホームスパンであたたかな織物を手掛ける上杉浩子さんのおはなし、つづきです。

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Photo:有賀 傑 text:田中のり子

 

岩手旅行から東京の自宅に戻ってホームスパンについて調べてみたら、「織り」はともかく、「手紡ぎ・手織り」の工程すべてを教えてくれる場所はなかなかありません。そんな中、雑誌『別冊太陽 大人の教室』を手にしたところ「この工房に通ってみたい!」と思う教室を発見。何とその「清野工房」は、偶然にも家から徒歩10分の距離のご近所でした。早速電話をかけ、工房見学をさせてもらったものの、全国から生徒が集まる人気工房だったため、そのときは満席。半年ほど順番待ちをすることになりました、そのさなかも「待っている間にもできそうなので」と隣町の原毛を販売しているお店に足を運び、店に並ぶさまざまな原毛を50gずつ購入して、独学で毛糸を紡ぐことを始めてみたのだとか。

 

「自称オタク体質」の上杉さん、興味の対象はとことん掘り下げていくタイプ。原毛の種類による手ざわりや風合いの違いに驚き、羊毛の世界に魅せられていきます。

 

 

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「メリノ種はエレガントで繊細、ふっくらやさしい感触。編み物界では『ニットの貴公子』なんて呼ばれるブルーフェイスレスター種は、むっちりとした弾力とツヤが魅力。シェットランド種はやんちゃな感じで、ツンツン張りのある毛がありつつも、丈夫で温かい。人気のカシミアは軽くてやわらかいけど、ややふくらみに欠けるところがあるんです。そこへ羊毛を加えるなどの調整をすると、それぞれが補い合って、素晴らしい感触になったりするんです」

 

最初は「苦手だな」「仲良くなるのが難しいな」と感じる品種でも、ブレンド具合や紡ぎ方などによって、どんどん近づけて寄り添える感覚が生まれてくることも。何より羊は動物なので同じものは二度となく、栄養状態や性別、育ち具合によっても感触はどんどん変わります。やればやるほど「果てがなく、終わりがない楽しみ」と感じられたそう。

 

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やがて「清野工房」に空きが出て、通い始めることとなりました。とはいえ、通えるのは月に1回、織り機の台数の関係で、機(はた)に向き合えるのは半年に1回程度。より熱心に製作を行うためには、「自宅でどこまで道具を揃えるか」が問題となってきます。機はかなり高価なもののうえ、家の中でもスペースを占有してしまいます。そんなとき、イラストレーターとして活躍する夫の上杉忠弘さんがひと言。「道具を買ってもいいけど、買うなら、きちんと仕事にしなよ」

 

「その言葉を聞いて、スイッチが入ったんだと思います。それまでは漠然と、ただものを作りたいだけで。作家になりたいとか、そういうことは全然考えていなかったんですが……『どうしよう、どうにか仕事にしなきゃ!』みたいな感じで(笑)。彼のそのひと言がなければもしかして、今も大がかりな趣味のままだったかもしれません」

 

織物の製作をしながらも、フリーの編集者として仕事は続けていた上杉さん。手掛けたレシピ本の出版記念イベントで、京都の人気書店「恵文社一乗寺店」を訪れたときのこと。首に巻いていた自作のストールが、当時副店長でありギャラリー部門を仕切っていた椹木知佳子さん(現「kit」店主)の目に留まり「うちで展示をやりませんか?」とお声がかかりました。それが作家としてのデビューとなり、初回の展示で作品は何とほぼ完売。以来およそ1年に1回、京都での個展が定例となっていくのです。

 

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「工房のベテラン生徒さんの方々と比べても、まだまだ下手でしたし『本当に私でいいの?』という感じでした。でもここで『私なんか、まだまだ』と遠慮して、せっかくのチャンスを無駄にするのはもったいない。やらなくて後から後悔するよりも、やるだけやってみよう。もし失敗して作品が売れなくても、何がダメだったのかを振り返ることができると思ったんです。夫からの言葉もあり『仕事にしないと意味がない』と思っていましたから(笑)」

 

編集者という職業は、著者と関わり、「どうしたらその人が存分に輝けるか」を常に考える仕事です。ホームスパンに関しても、その感覚は知らず知らずのうちに生かされていた模様。

 

「主役はあくまで『巻き物』。自分が作ったものには愛着があって、それぞれがかわいくて仕方ないんです。だからこそ、その子たちをどう素敵に見せるか、輝かせるか。例えば個展のDMの写真の撮り方なども、すごく考えます。誰かのために『かわいくて温かい、最高のもの』を用意したい。その目的が最重要で、作り手である私は、どちらかというと裏方という感覚なんです」

 

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学生時代は東京・渋谷の映画館・配給会社「ユーロスペース」でアルバイトをしていて、筋金入りの映画少女だったという上杉さん。「もの作り」で影響を受けたのは、『汚れた血』『ポンヌフの恋人』などの作品で知られる映画監督、レオス・カラックス。パリを旅行で訪れた際、日本蕎麦屋さんで偶然見かけて話をしたり、映画『ポーラX』のプレス試写会でサインをしてもらったこともあるそう。

 

「私にとってカラックスは、『見たことないものを、見せてくれる人』。それは突飛なものを作るという意味ではなく、『やりつくされたと思っていたジャンルに、こんな手があったのか』『日常の何気ない風景の中に、こんな美しさやきらめきがあったのか』という風に、見慣れた世界に、生き生きとした新しい視点をもたらしてくれる人ということなんです」

 

どんな作り手も仕事を続けるうちに『私はこういう人だから』と、知らず知らずのうちに自分自身を限定してしまうことがあります。例えば洋服の着こなしと同じように、それを個性としてとらえることもできますが、他人から見たら意外と別の色やアイテムが似合うケースもあったりします。それを試すか試さないかは、自分次第。上杉さんは常に「自分は『やってみよう』と思う側でいたい」と考えているそうです。ただシンプルな一枚の布だと思われる織物にも、上杉さんは無限の可能性を感じ、それを見極めていこうとしているのでしょう。

 

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映画、絵、本など、幅広い好奇心と教養を持った上杉さん。こちらはアメリカの美術家、バーネット・ニューマンの版画集と、そこからインスパイアされた作品。

 

「古本屋で偶然見つけた画集で、表紙の色合いが何てきれいなんだろうと手に取りました。ニューマンは色の組み合わせ方が天才で。陶芸家の方はよく古い器を見て、それをなぞらえたものを製作する『写し』をよくやりますが、私はそれをマフラーでやってみようと思ったんです」

 

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製作工程の中で、特に「手紡ぎ」の作業は、手がける人が少なくなり、絶滅の可能性がある技術だそうです。事実、ホームスパン発祥の地・イギリスではすでに、手紡ぎを行う人はほとんどいないそう。編集者として長く「伝える」ということを考えてきた上杉さん、今後はホームスパンの素晴らしさについて伝え、残していく仕事の一端も少しずつ担っていきたいと考えるようになってきました。

 

「世界中のあらゆる手仕事が直面する問題ですが、技術は一度失われてしまったら、取り戻すことは容易ではないんです。手を動かすのは大変ですが、その反面、楽しいからこそ続いてきたとも思います。手紡ぎも手織りも、本当に楽しいんですよ。そのことを、たくさんの人に知ってもらいたいです。たとえば子どもたちと一緒に、手紡ぎのワークショップなどもしてみたいですね。心と身体が『楽しい!』と思ったことは、人は必ず続けたくなるものですから」

 

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Profile

上杉浩子(うえすぎ・ひろこ)

旅行雑誌の編集者を経て、フリーランスの編集・ライターとして独立。東京「清野工房」でホームスパンを学び、2010年より「hou homespun」の名義で個展を開始。編集を行った本に奥谷まゆみ著『骨盤育児』(京阪神エルマガジン社)、謝花三千代著『がちまい家のオーガニックな焼き菓子』(KADOKAWA)など。http://www.hou-homespun.com/

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