為末大さん、諦めていいって本当ですか? Vol.2

暮らしのおへそ
2017.04.12

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Vol.1はこちらから

勝てないなら
勝ちやすい場所へ移動すればいい

 

 為末大さんは2012年のロンドンオリンピックの予選に敗れ
引退するときに、不思議なほど迷いや葛藤はなく、
すっと舞台から降りる心持ちだったのだと言います。

「もともと、比較的早くから『終わり』を
警戒する性格なんですよね(笑)。
僕は、中学生の頃100メートルで7位入賞を果たし、
当初は短距離の選手でした。
タイムはぐんぐん伸びて、同世代のトップに立ちました。
でも、高校時代後半から勝てなくなった。
それで400メートルハードルに転向したんです。
なんとなく、ハードルの世界では、
必勝法がまだ確立されていないと感じたんですよね。
走ってハードルをうまく飛ぶ。まわりの選手たちは、
そのふたつの要素だけをやっていた。
でも、もっとそれ以外のこと、たとえば、
ハードルにうまく足を合わせるための助走の練習など……。
みんなが気付いていないポイントが残されていて、
そこを突き詰めていくと
自分が勝てるんじゃないかと思ったわけです」。

 つまり「努力しても勝てない」ことがわかったとき、
「勝ちやすい場所」へと自ら舞台を変えたというわけです。
ここが、為末さんのすごいところ。
普通なら、ずっと頑張ってきた世界があったなら、
何があってもそこで結果を出そうともがくもの。
でも、冷静に自分と周りを見つめ、
「勝てる」場所へと軽やかに飛び移る……。

 私たちが「思いどおりにいかない」とイライラするときには、
決まって、周囲がまったく見えなくなっているよう。
子供の受験に必死になってるときに、もう少し大きな目を持てば、
「いい学校にいくだけが、いい人生じゃない」と思えるだろうし、
会社で「あの上司に認められなきゃ」と焦っているときに、
違う角度から見てみれば「あの人にほめられるために
私はここにいるんじゃない」と気づくことができます。

「引退間際に、だんだん結果が出せなくなって、
その現実を努力で変えるということが
難しいとわかってくるわけです。
そもそも自分の骨格は変えられませんよね。
そんなときに、ちょっと『見方を変える』とか
『視点を変える』だけで現実が違って見えてくる……。
そして、競技に勝つだけがすべてだと思ってきたけれど、
それ以外にも生き方はあると思うようになりました」。

 このことを為末さんは、著書でこう綴っています。

———『今の人生』の横に走っている『別の人生』があるーー。

 もし、何かにつまづいて、前に進めなくなったとき、
ふと横を見てみたら、もうひとつ別の道がある……。
そう気づいたとしたら、なんだか心が軽くなる気がします。
そして、見方、考え方を少し変えるだけで、
暗闇に一筋の光が差すのなら「もうちょっとできるはず」と
自分を信じてあげたくなります。

Vol.3に続く

text:一田憲子 photo:中川正子
『暮らしのおへそVol.23』より

 

Profile

為末大

TAMESUE DAI

1978年広島生まれ。陸上スプリント種目の世界大会で、日本人として初のメダルを獲得。男子400メートルハードルの日本記録保持者。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。2012年現役を引退。現在は、自身が経営する株式会社侍ほかでスポーツ、社会、教育などに関する活動を幅広く行っている。

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