服に寄り添うコサージュを~「la fleur(ラ・フルール)」岡野奈尾美さん(前編)

”つくる人”を訪ねて
2017.04.19

生活道具からおいしいものまで、衣食住にまつわるさまざまな“つくる人”を訪ねるマンスリー連載、今月はコサージュブランド「ラ・フルール」を手掛ける岡野奈尾美さんのアトリエにお邪魔しました。

Photo:有賀 傑 text:田中のり子

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かつてコサージュと言えば、結婚式や卒業式、入学式などの慶事ごとに女性の胸元を飾るものと考える人が多かったようです。けれどもここ数年は、お祝い時に限らず普段の装いの中にも、自分らしさを表現する方法のひとつとして、コサージュを身につける女性が増えてきました。岡野奈尾美さんは、コサージュをそんな身近な存在にしてくれた作り手です。

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こちらは「マーガレット」と名付けられた、春夏の新作。岡野さんのパートナーである岡野隆司さんが手掛ける洋服ブランド「FOR flowers of romance」のパッチワークワンピースの胸元につけて。ベルベットと水玉のシルク生地の花びらと、花芯と茎の黄色のコントラストが印象的で、可憐さと強さを兼ね備えた作品です。

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こちらも新作の「アネモネ」を「FOR」のスカーフドレスに合わせました。花びらはサテン地とシルクオーガンジー、メリハリのついたモダンな組み合わせ。1枚1枚ていねいにつけられた花びらの表情が、色数を抑えた中にも華やぎを伝えてくれます。「私は服の上で完成するコサージュを作っている」と話す岡野さん。

「つけたときに花が目立つのではなく、花がその人の個性や魅力が引き立たせる。身につけた人の一部となるような花。そういうコサージュをつくりたいといつも考えています」

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洋服のようにサイズがあるわけではないし、たとえ10歳の女の子も70歳の女性でも、同じ花を選ぶことができるし、つけているうちにその人になじんでいく。

「花が枯れて、朽ちていく様子もまた美しいように、私が作る花も、どんどん使ってくずれていく様が素敵であるように作りたいと考えています。くたくたになって、まるでアンティークのように味わいを増し、新品とまったく違った姿になって『その人の花』に変化してほしいのです」


岡野さんにとっての「コサージュ」というアイテムとの出会いは、小学校に上がる前の少女時代。記憶にうっすら残るそれは、幼なじみのお母さまが手づくりしたリボンフラワーでした。

「私たちの母の世代は、今よりもずっと『作ること』と『暮らし』が密接でした。布を買って子どもたちの服を仕立て、毛糸を手に入れてセーターを編み、人によってはアクセサリーなども手作り。『コサージュ作り』も今よりずっとポピュラーで、お教室で習っている人も多かったみたい。だから私も自然と目にしていたし、当時習いごとで使っていたという道具を、今でも譲り受けることが多いんですよ」


成長した岡野さんは洋服に夢中になり、文化服装学院に進学しました。「今でも実はそうなのですが、当時から私はファッションにしか興味がなくて。ずっとファッションデザイナーになるつもりでした」

けれども洋服のデザインは制作の規模も大きく、関わる人数も多くなりがちです。それよりも、自分の目の届く範囲で制作を行うほうが感覚的にもしっくりくる。コサージュのいいところは、すべてが手に届く範囲にあって「テーブルの上で完成するもの」だから。今でも「ラ・フルール」のコサージュは外注に出すことなく、年間数千個に及ぶ商品をすべて、岡野さんとスタッフで制作しています。

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「すべてのもの作りに共通していますが、作り手が何を考えているのか、どんなものを見てきて、何を美しいと感じているか、商品にはそういったものがすべて出てしまうと思うのです。手のひらに収まるコサージュなら、なおさらそれを隠しようがない。そういったサイズ感も、私にはしっくりはまったのだと思います」

 

後編につづきます

Profile

岡野奈尾美(おかの・なをみ)

文化服装学院服装科卒業後、フォーマルウエアメーカー、「アトリエ染花」を経て、1994年よりコサージュ作りの活動を開始、2003年よりブランド「la fleur(ラ・フルール)」を設立し、コレクションを発表する。

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