服に寄り添うコサージュを~「la fleur(ラ・フルール)」岡野奈尾美さん(後編)

”つくる人”を訪ねて
2017.04.20

コサージュブランド「ラ・フルール」を手掛ける、岡野奈尾美さんのお話、つづきです。
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コサージュを作る材料は年々手に入りにくくなっており、かつての1/2、1/3量にも減っているそうです。コサージュという枠組みだけで考えていたら不安材料ばかりでしたが、岡野さんはその状況を逆手に取る発想で、もの作りを続けてきました。

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「素材がなければ、その素材に見えるものを探したり、あるいはまったく別のものを組み合わせていけばいい。自分が思い描くものにたどりつく方法を考えるのが、楽しいんです。長く仕事を続けていると、『できない』の裏返しには常に『できる』があることが、経験的に分かってきました。だから今も、『できないよ!』と思ったときが、いちばんのチャンスと思うようにしている(笑)。否定からは何も生まれないので、常に肯定から始めようと思っています」

そんな考えを示すように、岡野さんのコサージュは既成概念にとらわれず、実に多様な材料が使われています。シルクやオーガンジー、ベルベットなどの生地はもちろんのこと、ニット、アクリル板、ビニール、レザー、紙などなど。時にはヘアウィッグや鏡、水牛の角といったものを使ったこともありました。

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春の新作のパーツ作りで登場したこの花柄の生地は、岡野さんのお母さまのエプロンだった布。ひとつひとつのパーツが小さいからこそなせる技です。その他、デッドストックの布を使ったり、隆司さんのコレクションで使用した残布を活用したり。逆境をも楽しめるような柔軟さ、しなやかさを感じさせてくれる一方で、その裏にある岡野さんのもの作りへの強くまっすぐな情熱が伝わってきます。

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コサージュ特有の道具といえば、この「はんだごて」のような「コテ」のみ。こちらの道具を熱し、布に押し当てることによって、平面だったものが立体になり、花びらや葉の表情が生まれます。それ以外はハサミや竹ぐしなど、身のまわりにあるものがほとんど。制作工程でいちばん難しいのは、これらのパーツを束ね立体に花のかたちに組み上げるときで、長年作り続けている岡野さんも常に緊張する瞬間だと言います。

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岡野さんのアトリエでは、「ラ・フルール」としてコレクションを発表する以外に、国内ブランドと組んで、アクセサリー制作も積極的に行っています。アトリエの棚にはオリジナルとともに、コラボレーションした作品たちのアーカイブも数多く並んでいました。

「そのブランドに対してリスペクトができれば、どんなコラボレーションも楽しいし、得意だと自分では思っています。逆に自分のコレクションは、常に実験・追求を重ねなくてはいけないから、やはりエネルギーが必要。『ラ・フルール』には“定番”というものがなくて常に新作を作り続けているので、試行錯誤のくり返しです」

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オリジナルとコラボレーションというもの作りの両輪。そんな岡野さんの制作の日々に、欠かせないのが音楽の存在だそう。シーズンごとにテーマとなるような曲があり、それをくる日もくる日もアトリエで延々と流しながら、制作に没頭します。ジャンルはロックから現代音楽まで、さまざま。

そして自身の展示会は毎回「ZINE」(アーティストが小部数で発行する、自主制作の出版物)に見立てているそうで。たとえば2017春夏は「in the soup」といったテーマを決め、散文を添え、音楽や花、食べ物など五感に訴えるものたちで会場を埋め尽くします。単にコサージュというアイテムを作り、並べるだけでなく「ラ・フルール」としての世界観を伝えていくのです。

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「Radiohead」の「Daydreaming」という曲のMVでは、ある部屋の扉を開けると、また次の部屋が現れ、また扉を開けると別の部屋が現れる……という少し幻想的な映像が続きます。「もの作りを続けている理由は、その映像の感覚にちょっと似ている」と岡野さん。

ドアを開けるとまた新しいドアが現れる。新しい部屋に入ると、また違う世界が見えてくる。単に同じことを淡々と続けているわけではなく、続けるからこそ、新しい世界が見えてくる。人から見たら手のひらほどの小さな花ですが、岡野さんはそこに、豊かで尽きない可能性を見い出しているのです。「毎日、もの作りのことばかり考えています。それができることは、本当に幸せなことだと思っています」

Profile

岡野奈尾美(おかの・なをみ)

文化服装学院服装科卒業後、フォーマルウエアメーカー、「アトリエ染花」を経て、1994年よりコサージュ作りの活動を開始、2003年よりブランド「la fleur(ラ・フルール)」を設立し、コレクションを発表する。

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