目と肌に心地いい質感のつらなり~「絲室」磯部祥子さん(後編)

”つくる人”を訪ねて
2017.05.11

インドのカディを使った作品を発表する布作家・磯部祥子さんのお話、つづきです。

 

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photo:有賀 傑 text:田中のり子

 

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オープンして30数年になる「Zakka」は、オーナー・吉村眸さんの審美眼とお人柄により、多くの使い手の方々はもちろんのこと、作り手たちからも信頼を集めているお店です。国内外を問わず、吉村さんのフィルターを通して集められたものたちは、単なる「生活道具」の枠を超え、暮らしの哲学やスタイルなどを伝える存在として、愛されてきました。

 

「決してたくさんの品が並んでいるわけではありませんが、どれも吉村さんの愛情が注ぎ込まれていて、ものが輝いていました。ゆったりしているのに、凛としてどこか背筋が伸びる空気感は、吉村さんのお人柄そのものだったと思います」

 

ものや空間は、単に目に見る部分だけで構成されるのではなく、その奥にある信念や人となりが表われるもの。ご家庭の事情によりのべ一年と少ししか「Zakka」では働くことができなかったそうですが、そこで得た経験は、作家として独立した今にも、大きな影響を受けているそうです。

 

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なお、退職前の2011年初夏に開催された「鍋つかみ展」(Zakkaのスタッフとその卒業生たちによる鍋つかみの展覧会)では、磯部さんも作品を出品することができました。磯部さん曰く、「私が作ったものがいちばん地味で、素っ気ない鍋つかみだった」とのこと。けれどそのときに「山のスコレー」の小川さんが作品を買ってくれて、その後のお付き合いにつながっていったそう。

 

磯部さんが作家という意識で「作品」を作るようになったのは、カディとの出会いが大きかったようです。カディとはインドの手紡ぎ・手織りの布で、イギリスが植民地支配をしていた時代に、機械織りの綿布に対してのインド人の自立をめざし、当時首相だったマハトマ・ガンジーが提唱した布として知られています。手仕事ならではの不均一で風合いのあるテクスチャーが魅力で、ふんわりと空気を含み、夏は涼しく冬は温かいのが特徴。一枚一枚微妙に表情が違い、同じ布は決して存在しません。

 

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そんな不均一な布同士をさらに組み合わせてみると、不思議な趣きが立ち上がってきます。磯部さんの深層に訴えかけてやまなかった「素材のつらなりの面白さ」が、強く確信として生まれたのがこの素材との出会いがきっかけでした。過去にインドを訪れたのは3回。この春も2週間で3都市をまわる旅に訪れており、たくさんの素材をかかえて日本に戻ってきました。

 

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ちなみにその旅でインドから持ち帰ってきた思い出たちがこちら。手漉きの紙でできた封筒やカード、問屋街で購入した紙皿、スーパーで出会った陶器入りのろうそく。それに真鍮のスパイス入れや茶葉が入っていた紙の箱、お寺の庭に落ちていた赤い魔除けの実。「質感フェチ」な磯部さんらしいセレクトがなんとも微笑ましく、見ているこちらまで、つい頬がゆるんできてしまいます。

 

「今でも自分が『布作家』と呼ばれることに少し抵抗があって、自分よりもきれいに縫える人は山ほどいますし、母からも『不器用なあなたがミシンをやるなんてねえ』と驚かれているくらい(笑)。だから『縫いものをしている』というよりは、自分の感覚で『素材を組み合わせている』という感覚なんです」

 

図画工作で手を動かすことが楽しかった幼い頃の感覚。いろんな質感の食材のつらなりに目を奪われていたアルバイト時代。磯部さんの時間の積み重ね方は、決して要領がいいわけではなく、答えを出すスピードは人よりも遅いかもしれません。けれど自分にとってのそのときどきの「正解」を、ていねいに見極めてきたからこそ独特な感性が育まれ、一見素っ気ないシンプルな白い布から広がる豊かな世界の実感を、私たちにもしっかりと伝えてくれるのです。

 

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「暮らしの中で布はいちばん肌に近い素材で、触れて気持ちがいいものは、心までほっとさせてくれます。私が手掛けるものは、なくても生活はできるものだけど、ある人にとっては心がなごみ、豊かな気分になってもらえるもの。だからこそ作品や作り手である私が強くする主張するものではなく、それぞれの方の暮らしにそっと寄り添えるようなものをつくっていきたいと思っています」

 

現在は自宅と制作場所を兼ねていますが、いつの日か制作を行いつつ、お客さまが訪ねてくれて作品を見てもらえるようなアトリエ兼ショップのような空間を持つのが夢だと話す磯部さん。彼女の暮らす素敵なご自宅と作品の数々を拝見するにつれ、その日がひどく待ち遠しく感じられました。

Profile

磯部祥子(いそべ・さちこ)

女子美術大学ファッション造形学科卒業後、都内の食材店、雑貨店などで働いたのち、2012年より布作品の制作をスタート。「絲室」の屋号で、作品を発表する。作品は神奈川・鎌倉の「山のスコレー」、東京・台東のショップ「フーコ」などで取扱い中。https://www.itoshitsu.com/

 

 

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