美しい循環を生み出す帽子づくり~「chisaki」デザイナー 苣木紀子さん(前編)

”つくる人”を訪ねて
2017.06.14

雑貨からおいしいものまで、衣食住にまつわるさまざまな“つくる人”を訪ねるマン スリー連載、今回は人気帽子ブランド「chiaki」を手掛ける苣木(ちさき)紀子さんのアトリエ 兼自宅を訪ねました。

 

Photo:有賀 傑 text:田中のり子

 

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素材はナチュラル、飾りなども最低限なシンプルなかたち。けれども手にしてみると、ブリムがくしゃっと折り返してあったり、さりげないエッジがつけられたり。帽子というと洋服とくらべて、デザインの幅が限定されたアイテムのように思われがちですが、「chisaki」の帽子は手にした人に、「こんな新しい表情があったんだ」と、新鮮な驚きを与えてくれます。

 

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苣木さんがかぶっているのは「TIQO(ティコ)」と名付けられた帽子。「バオ」と呼ばれる、ココヤシの葉を加工した天然素材を使っており、水にぬらすとやわらかく、乾くと固くなる性質を利用し、ブリムの折り返し部分やトップの凹みなど微妙な表情づけをしています。白のコットンワンピース+生成りのガウンというナチュラルなコーディネートを、縁の黒ラインが引き締めてくれます。

 

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ブリムの折り返しやトップクラウンのくぼみ、サイドクラウンのエッジなどは、すべて1点1点ハンドメイドで作られたもの。360℃いろんな方向から見ると、それぞれ微妙にフォルムが変わって見え、どこを正面にするかでも印象がガラリと変わります。

 

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内側にはサイズを調節できるゴムがつけられており、先にはアフリカのリサイクルガラスを使ったビーズが。ブランドタグもひとつひとつ手縫い。手にした人にしか分からない、かぶるときのちょっとしたお楽しみがあるのも、「chisaki」の帽子の魅力のひとつです。

 

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こちらの帽子は「MELLE(メル)」。ちなみに帽子にはひとつずつ、あだ名や愛称のような名前がつけられています。麦ブレード素材に、グレーのグログランリボン。ブリムの後方が上がったハイバックデザインで、そのぶん前方のつばはやや前下がりに。「dosa(ドーサ)」のシルクワンピースと合わせ、胸元にはヒノキとアクリル樹脂を組み合わせたブローチを。ナチュラルな中にも、洗練されたバランスが際立ちます。

 

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リネン素材のキャスケットは「JUJU(ジュジュ)」。キャスケットというとどうしてもボーイッシュなイメージになりがちですが、後頭部のふくらみや、つばの程よい傾斜などが、上品な印象を生みだしています。「たとえばノーメイクで近所にちょっと買い物に行くときなどでも、女性らしいニュアンスを気軽に添えられるようなかたちを考えました」。もともとは布帛から帽子作りを始めた苣木さん。パターンの美しさには、定評があります。

 

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「chisaki」の中でも人気の高い「sonto(ソント)」は、折り畳める帽子。日本の和紙を原料としたペーパーブレード製の中折れ帽で、この形のアイデアは、海外の展示会にハンドキャリーで作品を持ち込んでいたときに、パッキングの失敗から偶然生まれたそう。たたみジワがかぶったときに美しいフォルムを生み出し、つば先には樹脂製のワイヤーが入っているので、自分なりの表情づけもできるそう。不要なときにはバッグに入れて持ち運びができることから、「旅行のときに便利!」と、買い求めるお客さんも多いとか。 「幅が5ミリから7ミリという細いブレードを、1ミリずつ重ねながら縫い合わせていくという、高度な職人技から生まれた素材を使っています。日本の職人仕事のレベルは世界的にみても素晴らしく高く、できる限りその技術を絶やさないよう、一緒に仕事を続けていきたいと考えています」

 

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しっかりとした世界観を持った「chisaki」の帽子。そのデザイナーである苣木さんは若い頃からさぞかし、ファッションやカルチャーにも造詣が深い育ち方をしたのでは……と質問すると、意外なお答えが返ってきました。 「佐賀の唐津出身で、大学時代は国語の先生になるために教育実習も受けました。けれども自分が教師になることに違和感を感じ、一般企業に就職し、化粧品メーカーのインストラクターの仕事をしていました。福岡から札幌に転勤し、一身上の都合で会社を辞め、東京に住むことに。パートナーの仕事がアパレルにも関係していたので、その営業仕事も行い、やがて自分も服作りをするようになったんです」 駆け足で経歴を伺いましたが、何ともすごい展開(!)。そもそも普通の会社員から「つくる人」への転換は、そんなに簡単に行くものなのでしょうか。

 

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「幼い頃から祖母と一緒に暮らしていたんですけれど、夜8時から寝るまでは、ふたりの『手芸タイム』にしていて、編み物をしたり、ワンピースや犬の洋服を作ったりして楽しんでいました。伯母が手芸用品店を営んでいたので、そこの編み物教室に通っていたり、母も洋裁をしていて、お手製の服を着ることが嬉しかったですね。ものをつくることは身近にあり、デザイナーという仕事に憧れも持っていましたが、何せ田舎でしたので(笑)そんなことも言ってもまわりは誰も反応できないような環境だったんです」 20代になり、めぐりあわせで服をデザインするチャンスに恵まれた苣木さん。持って生まれたセンスがあったのでしょうか、初年から有名セレクトショップでの取り引きが始まるなど、幸運に恵まれます。しかし「きちんと学んだことがないものが世の中に出ていくこと」に、コンプレックスのようなものを感じ、29歳のときに一念発起して、服飾の専門学校に通います。 けれども憧れていた洋服づくりも「自分には何だか違う」と違和感を覚え、学校を辞めたあとはしばらく、フリーター状態でふらふらしていたそう。その時期に、たまたま知り合いから「やりたいことも見つからず時間があるのだったら、帽子作りでも習ってみない?」とすすめられ、帽子との運命的な出会いを果たします。

 

→後編につづきます

Profile

苣木紀子(ちさき・のりこ)

独学で帽子作りを始め、帽子ブランド「valeur(バルール)」を手掛ける。12年デザイナーとして従事したあと、2015年独立。2016年、株式会社「MAISON ENKU」を設立し、新たなブランド「chisaki」をスタート。国内外での展示会で作品を発表し日本を始め、ヨーロッパやアジア、アメリカでも好評を博す。http://www.chisaki.co.jp/

 

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