手のひらの力を見直してみませんか? vol.3

からだ修行
2017.09.28

今月の先生:山口 創先生(桜美林大学准教授 身体心理学者)

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最後に田中が質問したかったこと、「手を当てていると生理痛が収まるのは、どんなメカニズムが働いているのでしょう?」と尋ねたところ、山口先生からは、こんなお答えをいただきました。

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「1965年に提唱された『ゲートコントロール説』というものがあります。簡単に言いますと、痛みの伝達路である脊髄には、痛みをコントロールするゲートがあり、門番役の神経細胞がゲートを開いたり閉じたりして、調整しているというものです」

つまり足をケガしたとしても、ゲートを開いているときと閉じているときは「痛み」の感じ方は違う。痛みを感じる部分を手でさすったり、おさえたりすると、触覚や圧覚を感じる神経線維がゲートを閉じる役割を果たし、痛みが脳に伝わるのを防いでくれるのです。また心理的な安心感も、ゲートを閉じる役割があるそう。私の生理痛も、どうやらそういった要素が重なって、緩和されているようなのです。さらに痛みに関しては、他人にさわられるよりもセルフタッチのほうが効果的だという研究もあり、そのメカニズムの解明が待たれているそうです。

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それにしても、今まで「ハンドパワー」的な、ざっくりとしたイメージしかなかった手の治癒力。科学的観点からは、こんなに有益であることが証明されているとは……! 大昔から人間はこういった力をしっかりと実感し、信じていたからこそ、「手当て」というものがこんなにポピュラーになったのですね。

さまざまな実験を行うとともに、臨床現場にも足を運んでいる山口先生。「手の治癒力」について、「何か印象的なエピソードはあったりしますか?」と尋ねたところ、「身近な例で申し訳ないのですが」と前置きしつつ、現在中学2年生になる娘さんについてのお話をしてくれました。

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娘さんが幼少の頃から、自らの研究分野を実践するかのように、スキンシップたっぷりに子育てをしてきたという山口先生。「こんなに肌をふれあって育てたのだから、うちの子は反抗期なんてないだろう」と期待するところもあったそうですが(笑)、ご多分にもれず、難しいお年頃に突入。一時は口も聞いてくれなくなり、かといって思春期の娘にベタベタとさわるわけにもいかず、どうしたものかと距離感をはかりかねていたそう。

「そこでタッチケアの専門家である友人に相談してみました。大人になりかけの人間に、小さな子どもに接するように、いきなり抱きしめたり、頭をなでたりするのはよくないので、さりげないきっかけづくりが重要だと教わったんです」

たとえば「仕事で新しいマッサージを習ってきたから、練習台になってよ」と声をかけてみる。最初は怪訝そうにしていた娘さんも、「しょうがないなあ」とつき合ってくれて、何回かしているうちに「気持ちいいね」ということで少しずつ、「部活でこんなことがあって…」などと、話してくれるようになったそう。そして次の日は「またマッサージやってよ」と自分から声をかけてくれるようになったとか。口で何を言っても難しかったものが、肌と肌のふれあいによって、親子でのコミュニケーションが再開できたのです。

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そのほかにも、過去に虐待を受け、自らもわが子に手をふるうことを止められない女性が、手をにぎったり、背中をなでたりというケアを受けるうちに、子どもへの愛情を少しずつ取り戻していったり、思春期でキレがちだった男の子がおだやかに変化したりと、「ふれること」の力を日々実感する事例を見聞きしているそうです。

「普通すぎることで見過ごされがちですが、手でふれることが、人間関係や体調などをよくしていくのに、すごく有効な手段だということ、自分の手には人を癒す力があるということを、もっともっとたくさんの方々に知ってもらいたいと思いますね」

本当に! 日本人はスキンシップが苦手と言われていますが、もっと気軽にもっとカジュアルに、「ふれる」ということを意識していきたいと思いました。大きなことはできなくても、心身が辛そうな人がいれば、背中をさすったり、手をにぎってみたり。そんなことなら、いつでも、どこからでも始めていけそうです。

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それにしても、取材をしている間じゅう、淡々と、おだやかでやさしい口調で話を続ける山口先生。その語り口を耳にしているだけで、何だかこちらの心までホワンとやさしい気持ちになってきてしまいます。取材終了のお礼をお伝えするとともに、その旨を先生にお伝えすると、

「いやあ実は、以前研究のときについでに調べてみたら、僕はオキシトシンの分泌量が人と比べて異常に多いようで、『ミスター・オキシトシン』なんて呼んでくれる人もいるんです(笑)」

「絆ホルモン」「しあわせホルモン」がいっぱい!! さすがです!! こういう方が、手の癒しについて研究を続けているということに、妙に納得してしまいました。山口先生、本当にありがとうございました!

photo:砂原 文 text:田中のり子

 

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Profile

山口 創

Hajime Yamaguchi

早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了。専攻は臨床心理学、身体心理学。桜美林大学リベラルアーツ学群教授、臨床発達心理士。著書は『手の治癒力』『人は皮膚から癒される』(草思社)、『皮膚感覚の不思議』(講談社)、『幸せになる脳はだっこで育つ。』(廣済堂出版)、『子供の「脳」は肌にある』(光文社)など多数。

田中のり子

Noriko Tanaka

衣食住、暮らしまわりをテーマに、雑誌のライターや書籍の編集を行う。『ナチュリラ』(主婦と生活社)は創刊当初からのスタッフ。構成・執筆をした『これからの暮らし方2』(エクスナレッジ)が好評発売中。

肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。

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