「今さら」ではなく「今から」 それだけで人生は変わります 理論物理学者 佐治晴夫さん

暮らしのおへそ
2017.11.16

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朝起きたら、スタインウェイのピアノでバッハを弾き、
日中は天体望遠鏡で“真昼の星”を観る──

そんなロマンティックな「おへそ」をもつ理論物理学者、
佐治晴夫さんを訪ねて、北海道の美瑛に行ってきました。
音楽家になりたかったけど、単なる憧れでしかなく、
数学科に進んで卒業はしたものの、周囲の天才たちに圧倒されて方向転換。

落ちこぼれ続けて、最終的には理論物理学者になったけれど、
惑星探査機「ボイジャー」にバッハの「プレリュード」を
搭載しようと提案できたのは、音楽と数学の知識があったから。

結局、人生というのは、そのときで
よかった悪かったとは言えないものなのです。

 

目に見えるものがすべてではない

 

理論物理学者の佐治晴夫さんは、
専門の物理学や天文学だけでなく、
音楽や詩などの芸術にも造詣が深く、
ピアノやパイプオルガンを弾きながら、
宇宙論などの難しい話を
やさしく語りかけるように教えてくれる人として
知られています。佐治さんの本には、
金子みすずや宮沢賢治、オスカー・ワイルドや
ロマン・ロランなどの文学から引用があるかと思えば、
バッハやベートーヴェン、シューベルトの楽曲が登場し、
その語り口は実に温か。
まるで一篇の物語を読んでいるように感じます。

取材にうかがう前日、
佐治さんからのメールにこんなひと言がありました。

「美瑛にいらしたら、
ぜひ真昼の星を見ていただきたいです」

真昼の星? と意外に思うかもしれませんが、
佐治さんは、1990年から
「昼間の星を見る」活動を全国で行っています。
現在は、2011年に仕事の拠点を移した北海道美瑛町に
一昨年新設した「美宙天文台」の台長でもあります。

「この天文台では、昼間でも星が見られます。
科学は見えないことを“見える化”することで進歩してきましたが、
目には見えなくても、存在するものはたくさんあります。
童謡詩人の金子みすずが『星とたんぽぽ』で謡っているでしょう?
 “昼のお星は目にみえぬ。見えぬけれどもあるんだよ、
見えぬものでもあるんだよ”と。昼間に星を見る体験は、
目に見えるものがすべてではないことに気づかせてくれます」  

 宇宙の中で私たちが目に見えるものは
たったの4%に過ぎないのだそう。
96%は見えないもの、正体不明なものだけれど、
確かに存在する。
そんな宇宙の研究を長年続けきた佐治さんですが、
もともとは物理学者になりたかったわけではないのだと言います。

「小学2年生のとき、『もうすぐ戦争が始まると、
日本に数台しかないパイプオルガンが焼けてしまうかもしれない。
学校を休んでもいいから、聴いてきなさい』と父に言われ、
兄に連れられて日本橋三越にパイプオルガンを聴きに行きました。
そこでバッハの曲に出会い、心を打たれ、
パイプオルガンを弾きたい、音楽家になりたいと思ったんです。
でも、能力がなかったので、大学は数学科に進み、
でも、そこでも周囲の天才たちに圧倒されて
理論物理学の道に方向転換しました。
とはいえ、今までやってきたことが無駄だったかと言えば、
決してそんなことはない。
音楽と数学の知識があったからこそ、
NASAのボイジャー計画に関わったとき、
惑星探査機『ボイジャー』にバッハの『プレリュード』を
搭載しようと提案できたのです。
そう考えると、人生というのは、
その時点でよかった悪かったというのは言えないものなのです。
これからどう生きていくかで過去の
価値はいかようにも変えられます。
未来が過去を決めるのです」

Vol.2に続く

 

text:和田紀子 photo:興村憲彦

『暮らしのおへそVol.23』より

 

Profile

佐治春夫

SAJI HARUO

宇宙創生に関わる「ゆらぎ」研究の第一人者として知られる理学博士(理論物理学)。大学教授や学長、学園理事長などを務めた後、2011年に北海道美瑛町にアトリエを建て、移住。近著は『ぼくたちは今日も宇宙を旅している』(PHP研究所)、『14歳のための宇宙授業-相対論と量子論のはなし』(春秋社)

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