「今さら」ではなく「今から」 それだけで人生は変わりますVol.3 理論物理学者 佐治晴夫さん

暮らしのおへそ
2017.11.29

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人の一生には全盛期も衰退期もない

 

「私たちは時間の経過とともに成長し,老いていきます。
年を重ねるということは、体や頭の動きが衰える一方で、
多くの経験を重ねて直観力が鋭くなっていく。
おしなべてみれば、人間の一生には全盛期も衰退期もないのです。
だからこそ、“今さら”ではなく“今から”。
好奇心を持って新しいことに挑戦することが大事です。
私がパイプオルガンのレッスンを始めたのは68歳のときでした。
何かを学び始めるのに年齢は関係ありません。
“今さら”ではなく“今から”数学を学んでもいい。
みなさんは数学が苦手だと思っているでしょう? 
でもそれは、数学の本質を教えない教育に問題があるんです。
数学というのは、物事の道理を単純明快に、
しかも無駄なく、美しくエレガントに表現することです。
それに気づくには、秩序があるところに
美しさを感じるセンスがあればいい。
それは計算が得意というのとはまた違い、
どちらかと言うとアーティスティックなセンスです。
だからこそ、私にとっては数式もポエムも音楽も同じなのです」

 どうしたら佐治さんのように芸術と科学の垣根をなくし、
同じ目線で美しさを感じることができるのでしょう?

「どんなものもうんと掘り下げた根底ではつながっています。
共通項があるんです。それを見出すには、
物事を統括的にとらえる知識が必要です。
文系・理系の枠にとらわれず、
幅広い知識を身につけることで、
既存の常識や慣習から心をリバレイト(解放)し、
自由なものの見方をすること。
それを教えるのが欧米の伝統的教育“リベラル・アーツ”です。
残念ながら、日本の教育制度はかなり早い段階で文系向き、
理系向きという区分を作って仕分けをしてしまっているため、
それができていないように感じますね」 

だからこそ、佐治先生は今、
自身の宇宙研究の成果を平和教育に生かす
「リベラル・アーツ教育」の実践を目指して、
全国の学校や美瑛町でピアノやパイプオルガンを弾きながら、
宇宙や命の授業を行っています。

 

宇宙を知ることは
自分を知ること

 

「子どもの頃、近所の子から
”キミどこかで拾われたんでしょ”と言われました。
悩んだあげくに思い切って母親に聞いてみると、
“あなたはお母さんのお腹から産まれたから
私はあなたのお母さんよ。
でも、あなたは牛さんのおっぱいで育ったから、
牛さんがお母さんなのよ”と言われました。
当時は母親のお腹から
産まれたと聞いて安心しただけでしたが、
“牛さんがお母さん”という言葉が
切々と迫ってきたのは
高校生くらいになってからでした。
牛は水を飲み、草を食べないとお乳が出ません。
牛が母親だということは、
周りの自然すべてが母親だと思い至ったのです。
それが私の原点にありますね。
人間はひとりでは生きられません。
自分を取り巻く環境や相手あっての自分です。

水が水ではない水素と酸素からできているように、
私は私でないものによって私になっています。
自分というのは「自」然の「分」身です。
なので、自分を知るためには、
自分を取り巻く環境や周囲との関係性を知ることです。
それは何も身近な周りだけでなく、
最も大きな環境である宇宙を知ること。
私たちは宇宙から生まれたのですから」

私たちは宇宙の分身であり、
宇宙のひとかけら。
138億年もの昔に誕生した宇宙に比べれば、
私たちの一生はほんの一瞬。
でも、その一瞬がなければ宇宙時間も途切れるわけだから
そんなささやかな人生だからこそ、
くよくよせずに、星空を見上げてみては?
きっと元気になります。



text:和田紀子 photo:興村憲彦

『暮らしのおへそVol.23』より

 

Profile

佐治春夫

SAJI HARUO

宇宙創生に関わる「ゆらぎ」研究の第一人者として知られる理学博士(理論物理学)。大学教授や学長、学園理事長などを務めた後、2011年に北海道美瑛町にアトリエを建て、移住。近著は『ぼくたちは今日も宇宙を旅している』(PHP研究所)、『14歳のための宇宙授業-相対論と量子論のはなし』(春秋社)

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