渡辺有子さん【後編】「いま、踊り場にいるな」と感じたら、次のことは深く考えず動く

仕事の壁、暮らしの壁
2018.01.19


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独立後、アシスタント時代の仕事ぶりを見てくれていた人たちから、さまざまな仕事が舞い込みました。依頼された仕事は、できる限り引き受け、夢中でこなした3年間。少ない素材でボリュームを出すレシピ、数百円の材料費でまかなうレシピ、10分で完成するレシピ。たくさんのレシピと向き合うことで、学ぶことは数多くありました。30代に入り、生活も安定してきて、仕事もうまくまわっている充実した日々。そんなとき、またしても頭に浮かんだのは、「いま、踊り場にいるな」でした。

ここでも渡辺さんは、先を案じることなく動きます。“私だからこそ、できる料理”をしよう。興味を持てるテーマがあり、そこに自分らしさを提案できる仕事をしていこう。

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「引き受ける仕事を絞ることによって、もちろん収入は下がりました。でもね、そんなに大変だった記憶はないんです。きっと、いろいろあったはずなんですけれど、忘れちゃうのかな。自分で決めたことだから、という覚悟があったからなのかもしれません」

まだわからない未来を思いわずらうこともなく、過去を振り返って後悔することもない。目の前のことを着実に、淡々と。自分の思うようなスタイルとペースで仕事を続けることで、ほかの何にも代えられない“渡辺有子の料理”を提案できるようになったのです。

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そして、再び「踊り場にいる」と感じたのは、40代半ばに差しかかるころ。「うまくまわっている」ということは、「自分の頭と体力を、まだ使い切っていない」ことでもあると気づいて……。そこからの渡辺さんの動きは、それまでとは段違いのスピードを見せます。30代から静かに積み上げてきたものを、次々と別の形に転換していきました。

2年前、アトリエが完成。“場”ができたことで、いままでは思うようにできなかった料理教室やイベントを、自分らしい形で実現できるように。「本や雑誌でレシピを提案するのとは違って、教室では直接、生徒さんに会って、話して、一緒に味わいます。ちゃんと伝わったか、楽しんでもらえたか、すべてが自分の責任。いままでにはない緊張感があります」

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そして今年、さらなる試みとして、オリジナルの瓶詰めや、自身でセレクトした器など食まわりのものを扱うショップ「FOOD FOR THOUGHT」をオープン。スタッフを抱え、責任も大きくなり、「もう、止まれないな」と感じることも。力いっぱい大きな車輪をまわしているみたい……そんなプレッシャーは、確かにあります。でもそれは、「一人ではできなかった規模のことが、これから、できるようになる」ことでもあるのです。それは、踊り場にとどまっていては、見ることのできなかった景色です。

「“いつかは”と慎重になって時機を逸してしまうなら、いま始めたほうがいい。思い悩んでいる時間を、具体的に動くことに使えば、ものごとはきっと、いいほうに進んでいくはずだと思っています。

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 <渡辺有子さんのこれまでの歩み>
22歳/料理研究家のアシスタントに
23歳/別の料理研究家のアシスタントに。編集プロダクション、カフェ立ち上げなどのアルバイトを兼務
26歳/独立。初の著書を出版
31歳/古い一軒家に引っ越し
32歳/はじめて“自分らしい本”と思えた『ひと皿ごはん』(文化出版局)を出版
41歳/ヴィンテージマンションに引っ越し
44歳/料理教室やイベントを開くアトリエ「FOOD FOR THOUGHT」を開く
46歳/食まわりの店「FOOD FOR THOUGHT」をオープン

text:福山雅美 photo:砂原文

 

→渡辺有子さんの他の記事はこちらから

→より詳しく読みたい方は、ナチュリラ別冊『幸せに暮らすくふう』をご覧くださいね

FOOD FOR THOUGHT

東京都渋谷区上原2-33-4
TEL:03-6416-8294
営業時間:11:00~19:00
定休日:月、火曜
https://www.instagram.com/foodforthought_shop/

Profile

渡辺有子

Yuko Watanabe

旬の素材の味を生かしたシンプルな料理で人気。センスある着こなしや暮らしぶりも注目されている。アトリエ「FOOD FOR THOUGHT」で料理教室やイベントを開催。東京・代々木上原に、同名のショップもオープンした。
http://520fft.tumblr.com/

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