ロルフィングで自分の体を見つめ直す vol.3

からだ修行
2018.05.04

今月の先生:高橋美穂子さん

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その後、呼吸のチェックもしていただいて、こちらもまたとても褒めていただきました。自分としては息が浅いように思っていたので、意外や意外。鼻からしっかり息を吐いて、背中側の横隔膜まで使って深く呼吸ができているらしく、それも長年続けているヨガのおかげかもしれません。

「ただし田中さんの場合……問題があると言えば、腕やひじのことですね」

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腕? ひじですか? ……と言われてハッと気付いたのですが、私は人生の今の今まで、自分の腕について深く考えたことは、もしかしたら一度もなかったかもしれません。

「腕、手首、ひじは、実は呼吸とも深いつながりがあるんです。ひじって横隔膜と同じくらいの高さにありますよね。ひじが緊張していると、呼吸が浅くなります。よくバッグをひじに掛けていらっしゃる女性がいますが、その持ち方は確実に呼吸が浅くなるんです」

確かに! 試しにふっと自分でひじに力を入れてみると、何だか呼吸がぎゅっと詰まった感じになります。もしかしたら取材のときにノートを取ったり、パソコンで文章を打ったりしているうちに、知らず知らずのうちに、ひじを緊張させていたのかもしれません。けれども高橋さんに触れていただいているうちに、またもやすーーっと息がラクに吐けるような気がしてきました。

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さらに肋骨に触っていくと……骨と骨の間にある、肋間筋がゆるんでいきます。肋間筋も、呼吸に大いにかかわる筋肉。「ここも動いていいんだよ」ということを伝えるように触れていくと、みるみるうちに胸まわりがゆるんでいきます。ロックが外れたかのように、呼吸がぐーーーと深くなっていきました。「わ、私、吐けています! 深い呼吸ができています!」。

呼吸が深まると、内臓が実によく動く。息を吐くたびに自分の胃袋がグーグー動いて、鳴る音がちょっと恥ずかしいくらい。このあたり、自分の体に起こるいろんな変化に、ちょっと軽く混乱してくると同時に、リラックスが深まりすぎてヘロヘロになり、論理的なことがあまり考えられなくなってきました。写真を撮るカメラマンの文さんも、「さっきより胸の位置が高くなってきました! かたちが変わってきています!」と、少し興奮気味。

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上半身の施術は、左側から始めていただいたのですが、体感としては、右とくらべて1.5倍くらいに大きくふくらんだようなイメージ。でも決して無理にふくらんだわけではなく、ゆったり、悠々とした感じです。高橋さんはそれを、「体が自分で、心地いい位置を見つけたんですね」と表現してしました。

左側だけを触っていただいていたときは、ちょっと左右差があって、少し皮膚や筋肉がひきつるような感触もあったのですが、高橋さんが右側を触り始めたとたん、体はあっという間に反応して、右側も心地いい位置にぷしゅーーと移動していき、すぐにほぼ左右対称の状態になっていきました。そのあまりにも反応の速さに、「体に心地いい場所を覚えさせる」というのは、こういうことなのか……と、改めて実感。私の体ってすごい。体ってすごい!

「こういう田中さんのような体の気付きは、1回目で分かる人もいるし、何回か回数を重ねるうちに分かってくる人もいる。本当に人それぞれ。もちろん普通の生活に戻れば、また同じようにひじが固くなったり、呼吸が浅くなったりすることもあると思うんです。でもそんなときに、『こうするとラクだったな』ということを思い出して、ちょっと使い方を意識すればいい。それだけでも体は、変化していくと思うんです」

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施術が終わったあとに訪れた、ものすごい脱力感と深いリラックスは、それまで体験したことのないものでした。例えるなら、今まで固い殻に包まれていたゆで卵が、殻が割れて、つるん、ぷるんと出てきた感じと言えばいいでしょうか。

しばらく休んだあと、再び椅子に座り、体のチェックを。視線の先には、窓の向こうに広がる広い海と水平線。「水平線を眺めているだけで、体は自然と左右のゆがみを整えてくれたりするんですよ」。海のそばに暮らす高橋さんが、活動の屋号に「水平線」と付けたのには、そんな理由もあるそうです。

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「私はロルファーですが、ロルフィングが体の不調を治す、唯一の正しい方法だとは思っていないし、合う人もいれば、合わない人もいると思います。ロルファーとの相性もありますよね。ロルフィングはひとつの『体の見方』『とらえ方』の提案。体のことを見つめ直すきっかけになれれば、うれしいなと思っています」

取材が終わったあとも、人にロルフィングの説明をするのが難しく、感想を聞かれると言葉に詰まり、あの深い深いリラックスを思い出して、「気持ちよかったし、何とも不思議な体験だった」と答えるばかり。けれども高橋さんの言われる通り、体への見つめ方が深まり、大切に思う気持ちが強まって、またひとつ新しいステージに上がったような気がしてならないのです。

photo:砂原 文 text:田中のり子


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Profile

高橋美穂子

Mihoko Takahashi

会社員、整体助手などを経て、ロルフィングの世界へ。2006年8月、米国ロルフ研究所のロルファー認定を受ける。現在は鎌倉を中心にセッションやワークショップなどの活動を行い、必要があれば近郊へ出張セッションも行っている。

田中のり子

Noriko Tanaka

衣食住、暮らしまわりをテーマに、雑誌のライターや書籍の編集を行う。『ナチュリラ』(主婦と生活社)は創刊当初からのスタッフ。構成・執筆をした『これからの暮らし方2』(エクスナレッジ)が好評発売中。

肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。

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