ポートランド子育て事情vol.1 ~スーパーマーケットが子育ての味方に~

1週間特集
2018.06.04

先週「もっと気軽に! 子連れ旅」を書いてくださったフォトグラファーの砂原文さんから、バトンを受け取ったのは、砂原さんが娘さんを連れて海外旅に出るきっかけをつくった、ポートランド在住の瀬高早紀子さん。日本とはちょっぴり、いや、かーなり違う環境での子育て事情を、1週間特集で書いてくださいます。もちろん、子育てをしていない方にとっても、心にズシンとくるお話がたくさん! 日本で“普通”と思っていたことを、一から見直したくなる、そんな1週間になりそうです。

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はじめまして。米国西海岸に位置するポートランドに暮らす、ライターの瀬高早紀子です。2011年からこの街に住みはじめ、3年後に結婚。その1年後に妊娠し、2016年には母になっておりました。

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時系列で説明するといわゆるトントン拍子、なのでしょうが、「数年住んだら帰国しよう」と何となく計画し、「自分は結婚するのかなあ」とぼんやりと自問し、「1ヶ月以上の長い時差ボケ(という思い込み)の末、夫に、もしやベイビー……?!」と指摘され妊娠を自覚した私にとっては、全てが思わぬ展開。人ごとみたいな語り口になってしまっているのはそのせいで、いまでも「人生って、自分の予想や予定をはるかに飛び越えて行くものなんだなあ」なんて、2歳の娘が地べたに突っ伏して大号泣しているような状況にこそ、ふと冷静に自分を見下ろすように実感しています。

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東京でフリーランスだった私が、仕事に全て区切りをつけ、当時の日本ではあまり知られていなかったアメリカの一地方都市“ポートランド”に移り住んだのは、2011年。30歳を過ぎた頃のことでした。

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理由は大小たくさん、年齢的タイミングも関係あります。でも率直明快な理由は「この街を住みながら知りたくなった」から。「車大国アメリカにもかかわらず、市民は自転車を好み、高速道路ではなく公共交通機関を作った」とか、「大量生産よりも地元の小さなメイカーの手作りのものを好む」とか、「DIYが盛んで、自分で自分の暮らしを作っている」とか……。それらの要素が複合的に「全米で最も住みたい街」にさせているのだそう。そんな話を聞くたびに、私が知っているアメリカ像とは真逆のベクトルにずんずんと進んでいくポートランドの妄想図が、とめどなく広がっていきました。

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そして最も気になったのは、「どうやってその独自のスタイルを築き上げてきたのだろう」ということ。その答えを数日ほどの旅や取材ではなく、自分で暮らしながら、感じて、見つけてみたい。そして自分なら、どんな判断や選択をしていくのだろう、という“セルフ実験”への期待もかすかに秘めながら、ポートランドへと飛び立ったのでした。

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実際に住んでみると、聞いていた噂や情報はほぼその通り。その楽しくもヘンテコな波乱万丈はまたいつかの折にさせていただくとして、今回は子どもが生まれたからこそ見えてきた新しいポートランドの姿、自分自身の発見などを中心に、お話しさせていただきたいと思います。

買い物のためだけじゃない
スーパーマーケット

生まれたての子どもとふたりきりで、初めてのお出かけ。それはどこの国にいようときっと、緊張の連続なのだと思います。ぐずったらどうしよう。オムツはちゃんと替えられるだろうか。忘れ物はないかな。もう不安要素は挙げたらきりがありません。

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そこで私が“お出かけの練習”をかねて迷わず目的地に選んだのは、近所にあるポートランド発のナチュラル系スーパー「ニューシーズンズマーケット」でした。なんせ、彼らの謳い文句は 「The friendliest store in town(あなたの街で最もフレンドリーなお店)」。その文言通り、そこはとっても親切で、かつ紋切り型ではない接客、オリジナルなおもしろさにあふれているのです。

何か商品の質問をすれば、そのブランドのことはもちろん、自分のお気に入りを延々と語ってくれたり、ある店員の最後の出勤日となれば、いきなり店内アナウンスで「さようならー♪ でも新しい門出をおめでとう~」なんて即興で歌い出したり。居合せた客も一緒になって拍手喝采!! 踊り出してしまう人さえ登場する有様でした。

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全米ではいま、どこも人件費削減、効率重視のためオートメーション化が進む一方で、このお店にはいつも楽しそうに働いている店員さんがいる。そんな彼らもまた同じご近所に暮らす住人。店員、客という垣根を超えて、親近感や安心感を、出産前から大いに感じていたお店だったのです。

そして、期待は予想をはるかに上回るものでした。オムツ替えをしていれば、店員さんはもちろん、お客さんも一緒になって、「何かあれば言ってね。おしりふきは十分にある?」「一緒に(子どもを)みててあげるわよ」「うちの孫はね……」。なれない私の手つきと娘の小ささからも、新米ママだと察してくれたのでしょう。皆、わが事のようにひっきりなしに声をかけてくれるのです。

スーパーに行く目的は
“他人の中でほっとかれること”

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お手洗いの脇にはデリを食べられるカフェコーナー、子どもが遊べるテラスと続いています。子どもが生まれて改めて認識したのですが、どの時間帯も親子連れが実に多いこと! ランチを食べに来る親子。早めの夕方、ワインやビールを飲みながら子どもをそばで遊ばせているパパママグループ(バーも併設され、なんとオレゴンの本格地ビール&ワインがいただけるのです)。

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私も、子どもがベビーカーで眠ったすきに、買い物はさておきテラスに直行。そこでただ、ぼーっとすることも多々ありました。普通のスーパーなら起こり得ないことが、ここでは許容される。目的は、育児のモヤモヤから解消されること。適度に放っておかれる心地よさの中で、他人と過ごすこと。(大きな声では言えませんが)買い物以外の目的で来ても、ここはウエルカム。そんな懐の深さも新たな発見でした。

育児の悩みを
安心して打ち明けてもいい

同フロアにあるコミュニティルームでは、現役のドゥーラ(産前産後ケアの専門家)が育児にまつわる様々な悩み、相談を聞く無料プログラムも毎週、行われています。ポートランド近郊にある全店鋪で行われているわけではありませんが、客でもあったドゥーラの数人が集まって、お店に掛け合ったのが始まりで、もう10年以上も続くボランティアワークなのだそうです。

私も片方のおっぱいが出にくく、また、頼れる誰かに話を聞いて欲しくて、何度か相談に行きました。そして同じように悩む同じような境遇の母親たちが身近にいる、ということが目に見えてわかっただけで「私もこうやって人前で吐き出していいんだ」と底知れず心が軽くなったものです。

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一母親で店員さんでもある女性のボランティアによる、絵本のストーリータイムも人気でした。感動したのは、彼女の子どもふたりも他の子に混じって参加していたこと。自分のシフト時以外にもこうやって職場に子ども同伴で来て、わが子だけでなく、地域コミュニティのためにできること、求められていること、やりたいことをする。子どもは親の職場、親の新たな一面を知ることで、地域コミュニティとつながれる。スーパーの一店員だからと枠にとらわれない行動力とそれを柔軟に受け入れる「スーパー」側の対応。

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いつの日かも、店員さん同士のこんな場面に遭遇したことがありました。「ここ(カフェテ
リア)に子どものためのフリーライブラリを設けましょう」「それはいいわね。じゃあ私、ポスターを作って、本のドネーションを募るわ」。ものの数分にも満たない立ち話から生じた案が、数日後にはもう実行されている。トップダウンではなく、店の内側からコミュニティへ。両手を広げて差し伸べるサポートもまた、この店の「ウリ」なのでしょう。

スーパーマーケットに来る目的は、買い物だけじゃなくていい。いつもの店が、出産後「地域の寄り合い所」のような存在として、私の中で位置付けられていきました。

→vol.2へ続きます

text:瀬高早紀子 photo:砂原文、瀬高早紀子

瀬高早紀子
Sakiko Setaka

東京で編集・ライターとして、暮らしまわりの本や雑誌を担当したのち、2011年に米国オレゴン州にあるポートランドへ移住。現地で「COURIER COFFEE ROASTERS(クーリエコーヒーロースター)」を営むジョエルさんと結婚、出産。お店では、季節限定のかき氷を担当。
https://sakikosetaka.tumblr.com/
Instagram「@sakikostkd

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