ポートランド子育て事情vol.2 ~“おっぱい”からのぞき見る日本との違い~

1週間特集
2018.06.05

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vol.1に引き続き、私の心の拠り所となっているスーパー「ニューシーズンズマーケット」での出来ごとです。ふと横を見たら、2、3歳ぐらいの女の子がお母さんに抱きかかえられ、何やら胸のあたりをモゾモゾ。あまりにも自然だったため、二度見どころか三度見してしまったのですが、その子は、モゾモゾモゾ……なんと、おっぱいを飲んでいたのでした。

そのお母さんはなめらかに横ゆれしながら、さもありなんと陳列棚から品物をひょいと取ると、そのまま別の棚に行ってしまいました。授乳ケープなんて、していません。タンクトップの上からぽろり、見えてしまっています。

もしかして、歩きおっぱい!!?
ショッピング授乳!?

まだ数ヶ月だった娘を連れ、外での授乳にどきどき、あたふたしていた私がどれほど驚き、茫然としてしまったことか。ベビーカーを押す手のみならず、身体全体の動きが完全に停止。一体化するその母子の姿に、見とれてしまったと言っても過言ではありません。つかの間、「すごーーーい」と心の中で、彼女の背中へ大きな拍手を送っている私がいました。

ハッとあたりを注意深く見渡し、さらに気づいたことが、周囲の老若男女が普通のこととして受け入れているのです。“立ちおっぱい”する母娘と隣り合った客や店員が、立ち話をしているではありませんか!

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帰宅して、さらに肩透かしをくらいます。夫に興奮気味に当の母子の出来ごとを伝えると「まあ、ポートランドだからね」と冷静な返答。「変わり者でいこう」が街の裏標語になり「裸で自転車に乗り、街を駆け巡る世界的なお祭り」で有名なこの街では、そりゃそうなのかもしれないけれど……。授乳ケープを携帯し、外でいかにスマートにおっぱいをあげられるか気張っていた自分が、なんだかとっても虚しく思えてきました。

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しかし、気づけばことあるごとに似たような光景に遭遇するのです。公園でピクニックする家族づれ、図書館でのサークルタイム、レストランのテーブルを囲みながら。そこに男性がいようが、どんな状況だろうがおかまいなし。隠すそぶりはさらさらなく、いやむしろ堂々とおっぱいをあげている女性たちがいる。その姿がまた、神々しいほどに美しい。少なくとも私の目には、まぶしいほどにそう映ったのです。

所変われば品変わる。
「神々しさ」と「迷惑」

「みんなこっちを見て、こそこそ何か言ってる……」。日本に帰国時、電車内で娘が号泣し出したので授乳し始めたら、夫がさっと耳打ちしてきました。私は服の下から見えないようにあげていたつもりでしたが、それでもおかしい、らしい。一緒に出かけた姉も、ケープなしの同じ状況下で「あなたは気にしなくても、周りの人には迷惑になり得るからね」とすかさず、静かに忠告。ポートランドでは神々しい! とさえ感嘆していた光景が、ここでは迷惑になる得る。ひそひそ話の対象になる……。

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郷に入れば郷に従え。それは十分に承知な上で、“周囲”や“他人”がどう思うのかをどれくらい優先すべきなのだろう。以来、ずっとどこかで引っかかっていたものが、飲み込んでしまえるほどに消えてなくなったのは、ポートランドで接した「スーパーで子ども用カートを押したがる娘」への、義父のこんな対応でした。

「危なくない限り、ぼくは思う存分やらせてあげるよ。意外と上手に押してるじゃない。分かる、分かるよ、君の気持ちも。歩き出したばかりの子どもにカート押させて、ってあからさまに嫌な顔する人もいるけど、でも笑顔で見守ってくれている人もたくさんいる。だから僕は気にしないよ」

なんだかんだ言いながら、周囲の顔色をうかがっていたのは私自身なのでした。自分のことは気にならないのに、娘のこととなると、迷惑顔する一部の人にばかりに気を取られて、彼女の好奇心をさておき、はなから何もさせないように仕向けていたのです。

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もしかしたら、あの東京の電車内でおっぱいをあげている私の姿を見て「なんかホッとしたー」とか「勇気をもらったー」なんていう“変わり者”が、一人か二人はいたかもしれません(笑)。次回の帰国時にもまだ授乳をしているのかはわかりませんが、自分が信じている行為に「迷惑」のレッテルがヒソヒソと貼られそうになったら、コソコソとその信念を引っ込めるのではなく、マジマジとその状況を見渡して、微笑みを返せる。それくらいの余裕をもった肝っ玉かあさんになっていたいなあ、なんて半分冗談、半分本気で思っています。

自分が信じることを
いつでもどこでも堂々と

「数人の変わり者が、まずは声をあげて行動を起こし、その熱量が捻じ曲げられずに、面白がって受け入れられ、支持してくれる人や環境が続いて来た。そしていまのポートランドがある」。そのような言葉を、折りに触れて聞いてきました。それは子育てにおいても普遍的な、この街のスピリットなのかもしれません。

「あなた、ここでそうやって堂々と授乳してくれて、なんだかとっても嬉しいわ」「子どもは2歳? アメリカはみんな1歳前後でやめてしまうし、どんどん(その年齢)は早くなっているわよね。でも気にしないのよ、他の人のことなんて。あなたと子どもがよければ出来る限り、続けてあげて。私も3歳まであげていたのよ」

斜向かいでコーヒーをすすっていた初老の女性が、前かがみになって顔を近づけてきました。この原稿を書いていた、夫のコーヒショップでの出来ごとです。何の因果か、引き寄せか、絶好すぎるタイミング。「ありがとう! そうするわ!!」 ジワリとこみ上げてくるものを喉元で押し殺しながら、私もぐっと顔を近づけ、返答しました。あそこで躊躇なくハグしなかったアメリカナイズ不足の自分を少し、悔やんでもいます。


→vol.3へ続きます

text:瀬高早紀子 photo:MASA、砂原文、瀬高早紀子

瀬高早紀子
Sakiko Setaka

東京で編集・ライターとして、暮らしまわりの本や雑誌を担当したのち、2011年に米国オレゴン州にあるポートランドへ移住。現地で「COURIER COFFEE ROASTERS(クーリエコーヒーロースター)」を営むジョエルさんと結婚、出産。お店では、季節限定のかき氷を担当。
https://sakikosetaka.tumblr.com/
Instagram「@sakikostkd

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