ポートランド子育て事情vol.4 ~イクメンはいない!?~

1週間特集
2018.06.07

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その諸問題がかなり深刻で、悩んでいる方もたくさんいらっしゃることを承知の上で、告白します。アメリカで働き、子育てするものにとっては、嫉妬さえ覚えてしまうほどにうらやましいもの。それは日本の保育園です。

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「働く親のため」と明確に謳った、誰にでも開けた公的機関。生後数カ月から、一日8時間、またはそれ以上、乳幼児から預かる体制が整っていて、保育料は収入によって適正に変動する。とても公平なあり方。入園をめぐっては、海を隔てたこちら側にもその厳しさ、お母さんたちの画策の試練は聞こえてきますし、きっと私の想像にも及ばない葛藤や試行錯誤の連続のはず。しかしそれでも、日本とアメリカの保育事情の違いを知れば知るほど、うらやんでしまう自分がいたのです。

大学費用より高い保育園代
それでも働く夫婦たち

アメリカにも乳児から受け入れる保育園=デイケアはありますが、約9割が民間運営で値段は一律(超低所得者への控除、補助は稀にあり)。週に5日、朝から晩までお世話になった場合、年間平均は$9589(約110万円)。全米の平均世帯収入の約1/5がデイケア代に消えてしまう状況です。兄弟がいたら、その額は想像に容易いですよね。日本の常識を知る私からしたら、この数字を聞いただけで尻込みどころか、もう立ち上がれないくらいに愕然としてしまいました。この額は、カレッジの平均学費より若干高いくらいなのですから。

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ではアメリカの働く親たちはどうしているの?? 私もずーーーっと疑問でした。あるデータでは18カ月以下の子どもを持つ親のうち、46%もの夫婦がフルタイムの共働き。そしてそのほとんどがデイケアに頼っています。みんないいお給料もらっているのね~、と勘ぐってみるも、実はそうでもない。フルタイムのデイケアを利用する1/3以上の家庭が四苦八苦、経済的に追い込まれた状況にあり、そのうちの7割近くがかなり深刻な状況にあるといいます。「もうギリギリ。貯金なんてほぼできないし、本当に切り詰めて暮らしているよ」と。それでも共働きを続けるのは、デイケア代以外の必要経費や今後のキャリアを考えた末のこと、という理由が大半。

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実のところ、このリサーチ結果を知るまで、(18カ月未満の子を持つ)親の共働き率はもっと低いのではないかと予想していました。なんせ日々、公園や公共交通機関、スーパーマーケットや図書館など、子どもと行くところ行くところではたくさんの親子連れに出会います。

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一方、日本に一時帰国した際に常連化するほどお世話になった地域の遊び場、子育て支援センターでのこと。当時1歳10カ月だったうちの娘は、他の子より月齢が上、さらに好奇心も比較的強い方。その日、ピアノに合わせて歌う催しがあり、張り切って母娘3代で赴いたものの、歌ったり踊ったり飛び跳ねていたのはうちの子だけ。どちらかといえばお母さんのリズムに乗せられてかろうじて揺れている、まだハイハイにも満たない赤ちゃんが大半。その輪の中で、娘は完全に浮いていました(笑)。帰り際、「何歳?」「ハーフ?」などと何気ないやり取りをする中で、教えてくれた人がいたのです。「1歳過ぎたらほとんどの子が保育園に行くからねえ」と。

ああ、合点がいきました。行政ベースの子育て支援施設で、四季に合わせた季節の行事もあり、もちろん無料で、ヨガや整体など親のためのクラスも併催されている。こんな至れり尽くせりの場所がポートランドにあったら、有料でも激混みしそうなのに、平日はいつものんびりめ。少子化だからか? そんな疑問がすっきり解消されました。日本の子どもたち、保育園にいたのか!

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話をまたポートランドに戻します。そう、そうです、どこにいようが遭遇する親子連れ。中でも特筆すべきは、平日の真昼間から遭遇するお父さんと子ども、という組み合わせです。その数は絶対値にしたら母子連れより少なくても、珍しいと感嘆するほどではありません。それはどうして?? 「イクメン」が流行を通り越して定着しているのでしょうか。答えはとってもシンプルでした。

お父さんが気持ちよく
早退しやすい環境とは

個人的本音もかぶせて大きな声で伝えると、(共働きの場合は特に)「夫婦で子育てしないとやってられない」からです。前述のリサーチ結果も補足して後押しするに、「アメリカでは、子育ては夫婦ともに平等にするもの」という意識と実践が深く浸透していることもわかりました。

「家事」「しつけ」「子どもと遊ぶ/活動する」。それぞれの項目において、共働きでも約60%
の人たちが「イコールシェア」つまり、「公平」に行っていると自認。出勤の時間を夫婦でずらして送り迎えをしたり、どちらかが時短や在宅勤務に切り替えたり、夜明け前から働く超朝型出勤にしたり(わが家はこれに該当)、平日休みを設けたり。夫婦によっては、父親が数年間、専業主夫になる人も増加傾向にあり(全米では6%)、実際、身近にも少なくはありません。

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だからなのでしょう。あえて育児や家事に積極的に参加する父親を「イクメン」などと、もてはやすような言葉や概念、トレンドがないのです。だって、育児や家事をやるのが当たり前なのだから。協力しなければやってられないから。

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友人夫婦は子どもの学校の遠足引率ボランティアで、夫婦のどちらが行くかで小競り合いになったと聞いて、なんて素敵な口論よ、と思わず突っ込んでしまいました。「そんな楽しそうなところ、自分だって行きたい!」というそのお父さんの子どものような好奇心は、どんな育児法にも勝る強みだと思うのです。

このような調整がきくのもアメリカ、特に西海岸に多い、自由で臨機応変なワークスタイルを容認するベース、風潮、社会があるからこそ。そして、「明日は我が身」「みんな大変」という状況を、各自痛切しているからこそなのでしょう。以前、取材したポートランドの、とあるクリエイティブ企業は、業界ではかなり珍しく女性トップの組織で、従業員の半数以上が女性。そこに勤める男性社員が何気なくいった言葉が今も忘れられません。

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「子どものサッカーのボランティアがあるから早く帰るって言っても、誰も何も言わないよ。むしろ、じゃあ残りはやっておくからって快く送り出してくれる。みんな会社では、同士でありファミリーでもあると思っている。ってことは、家に帰ればそれぞれに父親、母親でもある一個人を尊重してくれているんだよね」

仕事と生活を分け隔てる「ワークライフバランス」という考えだってもう古い、という人もいます。これからは、区切りをつけバランスを保つのではなく、子育ても遊びも仕事も、時間や場所にとらわれずに、融合しながらできる社会になっていくよ、って。夢みたいなそんな未来、どのくらい待てばいいのでしょう。どうやって手に入れられるのでしょう。

結局は、自分次第なのかもしれません。夢みたい、と待っているのではなく、どうやったらできるのだろう、と考えてみること。ポートランドの型破りな愛しき先人たちのように、まずは断片的にでもアイデアを誰かに伝えてみるだけでもいいのかもしれません。

日本の保育園が全くうらやましくなくなった、と言ったら嘘になりますが、近頃は、様々な親たちとそれを取り巻く実像、内情を知るうちに、「ない」からこそ生まれ得た団結力や寛容さ、サポートに、常々、感謝をしたくなる日々です。


次の最終回は、「で、私たち夫婦は一体どうなのよ」ということについて、です。

→vol.5へ続きます

text&photo:瀬高早紀子

瀬高早紀子
Sakiko Setaka

東京で編集・ライターとして、暮らしまわりの本や雑誌を担当したのち、2011年に米国オレゴン州にあるポートランドへ移住。現地で「COURIER COFFEE ROASTERS(クーリエコーヒーロースター)」を営むジョエルさんと結婚、出産。お店では、季節限定のかき氷を担当。
https://sakikosetaka.tumblr.com/
Instagram「@sakikostkd

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