革作家・華順さん(前編) ~手にしたときの“気持ちよさ”を大切に

”つくる人”を訪ねて
2016.04.25

雑貨からおいしいものまで、衣食住にまつわるさまざまな“つくる人”を訪ねるマンスリー連載、今月は手掛けるバッグやお財布が大人気の、革作家・華順さんのアトリエにお邪魔しました。

 

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photo:有賀 傑 text:田中のり子

 

 

 

華順さんの自宅兼アトリエがあるのは、東京・国立市の閑静な住宅街の一角。昭和な佇まいを残す一軒家の一階にアトリエには、たくさんの革材が積まれていました。

 

「実は撮影のために、まだまだたくさんある革材を、2階の部屋に隠しちゃいました(笑)。革屋さんに行って、いい革に出会うとつい連れて帰りたくなってしまって、在庫は増える一方なんです」

 

主に使う素材はイタリアなめしの革。仕入れに行くと、目の色が変わってしまうという華順さん。素人目には同じように見える革も、自然が与えてくれたものなので、一枚一枚表情が違い、それぞれに豊かな個性があるのだそう。じっくり見つめて、触れて、吟味して、「この子と、この子と、あの子」。そんな風に選ばれた革材は大切に届けられ、やがてシンプルで美しいフォルムの作品に生まれ変わり、作品を待ち望む人々の手元に届けられます。

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「革作家になるまでは、随分いろいろと遠まわりしてきました」

大学では美術史を専攻、学芸員への憧れがあったものの挫折し、卒業後はデザイン事務所に事務職として就職。そのうちに漠然と「手に職がある女性って、格好いい。自分も何か作る人になりたい」と考えるようになりました。

そこで昼間は働きながらデザイン専門学校の夜間コースに通い、立体デザインを学びます。2年間通学し、卒業後は、晴れてプロダクトデザイン事務所に入社。しかしそこでも、ひたすら図面やパソコン画面とにらめっこの日々が始まります。「手を動かしてものを作りたい」という欲求はふさがれたまま、悶々とした時が過ぎていきました。

 

「その時点ですでに、普通の人とくらべて何年もの時間のロスがある。次に何か別のことを始めるにしても、ものすごく真剣に考えて、きちんと決めてからじゃないと進めない、そう思ったんです」

 

そんなある日、街で素敵な革のポシェットを肩から掛けた女性を見かけました。ナチュラルなヌメ革の袋に、簡単な留め具がついた、ごくごくシンプルなかたち。けれど革の風合いが生かされていて、ハッとさせられるほど印象的な存在感でした。

「思わず追いかけて、『そのかばん、どこのものですか?』と聞いてしまったんです。怪しいですよね(笑)。それはとある住宅街で女性がひとりでやっている革工房兼店舗の作品で、私もそのショップを訪ね、同じものを買って帰りました」

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再びそのお店を訪れ、「何か手伝わせてください」と頼み込み、やがて仕事休みの土日に、簡単な雑務や革材のカットなどを手伝わせてもらうようになります。つややかでしなやか、使い込むほどに味わいの出る革素材。触れれば触れるほどその魅力に、どんどんのめり込んでいきました。けれどある日、女主人はこう言います。

「あなたには素質があると思うけど、うちではこれ以上の仕事はさせられないし、お給料もあげることができない。もしやりたいなら、ちゃんと働く場所を探したほうがいいよ」

もしかしたら私は「革」なのかもしれない。その事実を強く意識させられた言葉でした。

 

“革が好き”というと、バッグや小物類ではなく靴の世界を選ぶ人もいます。しかし革靴制作は、どうしても分業制になることが多く、必要とされる器具も多く大がかりになってしまいます。けれどバッグなら、女性ひとりでも仕事を続けていくことが可能だと思えたのだそう。

 

さまざまな制作の場を探して調べ、やがて27歳のときに、オーダーメイドの革かばん店で修業をすることに。ミシンを扱うのは、家庭科の授業以来。その工房では厳しさもありましたが、最終的に、5年弱という年月を過ごし、革製品作りを学んだのでした。

 

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「やっと手を動かせることがうれしくて、楽しくて。最初は、シンプルなブックカバー。少しずつ腕が上がっていくと、財布やパソコンカバー、かばんなど少し複雑な造りのアイテムも。そんな風に少しずつステップアップしていくのが、本当にうれしかったんです」

 

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革は動物の皮膚なので、布とは違い、強度もテクスチャーも均一ではありません。傷を避けて強度を考慮しながらパーツを切り取り、その革を漉いて(加工しやすくなるよう、薄く削る)磨いていきます。

例えば財布なら、ベースとなる本体部分に加え、ポケット、ファスナーにつけるつまみ、マチ部分など、多いものは二十強のパーツに分かれています。手が込んだものほどパーツが多くなり、あたかも料理の下ごしらえのように、すべてのパーツを準備して、それをひとつずつ縫い合わせ、完成に近づけていきます。

「でもその過程が楽しくて。終わりが見えてくると、うれしい分、少しさみしい(笑)。いつまでも、この子(革)と、たわむれていたいのに~と、思ってしまうときもあるんです」

 

“つくる人”を訪ねて 革作家・華順さん 後編につづきます

 

 

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Profile

華順(かじゅん)

大学では美術史を専攻。卒業後は働きながらデザイン学校の夜間部に通い、立体デザインを学ぶ。プロダクトデザイン事務所に勤務し、やがてオーダーメイドの革鞄店で5年弱修業を積み、2003年に独立。年に1~2回の個展、グループ展などで作品を発表している。

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