長谷川ちえさん【前編】とことん迷い悩んだからこそ、揺るぎない“いま”がある

仕事の壁、暮らしの壁
2018.07.30

この連載では、「ナチュリラ」で人気のおしゃれさんたちに、こんな質問をしてみました。「いままで仕事をし、暮らしてきた中で、ぶつかった壁、悩みは何ですか? どのように乗り越えましたか?」
第7回に登場していただくのは、長谷川ちえさん。東京の蔵前で営んでいた雑貨店「in-kyo(いんきょ)」を福島・三春の地に移し、少しずつ町に溶け込みながら、ゆったりほがらかに営業中です。とはいえ、暮らしと仕事の地を変えることは、やはり大きな決断でした。当時の長谷川さんは、そこにしっかりと向き合って、とことん悩み、きちんともがいて、今の健やかで幸せな日々にたどり着いたようです。

text:福山雅美 photo:砂原文

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長谷川さんが、東京・蔵前に「in-kyo(インキョ)」を開いたのは10年前。そこは、昔ながらの商店や町工場が並ぶ、のんびりとした街でした。「それが、数年のうちにどんどん変わって。新しいお店が次々とオープンし、たくさんの人が来てくれるようになりました」

そんな、いい風が吹いてきた中、昨年「in-kyo」はその地をあとにしました。新しく店を開いた場所は、福島・三春。移転の理由は、いたってシンプル。結婚することになり、夫の住む場所へ移ったのです。

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「出会ったときは東京で暮らしていたけれど、彼は『近いうちに、生まれ育った福島に帰る』と決めていました。ついていくべきか、悩まなかったといえば嘘になります。私が考え込む姿を見て、彼がとうとう『自分が東京に残ろうか』と言い出しました。でも、そこでようやく『何も、ここで突っ張る必要はないな。お店はどこでもできるものだし』と、決心がついたんです」

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東京の店には、たくさんのお客さまがいる。街もにぎやかになってきた。そして何より、自分自身がここを去るのは寂しい。約10年の年月の中で築いたつながりを手放してまで、移転する必要はないのでは? そう言って、引き止めてくれる人も多かったと言います。「とてもありがたかったですね。こんなに愛される店になっていたのかと、改めて感謝の気持ちでいっぱいになりました」

ただ、長谷川さんには結婚とは別にもう一つ、移転を前向きに考えるようになった理由が。それは、店を続けていくうえでの、消化しきれない矛盾でした。

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「いま思うと、慌ただしい毎日に少し疲れていたのかもしれません。暮らしの道具を扱っているのに、自分の生活にはまったく余裕がなかった。食べることが大好きだったのに夜遅い日々をリセットするため、朝は白湯を飲むだけで、お昼もゆっくり食べられず。しかも、それを不満には思っていなくて、このリズムを、もはや当たり前だと思っている自分がいました」

物件を探すために三春を訪れたとき、山に沈む夕日を見ました。「人は、きれいだなあと思う景色を、毎日見て暮らしたほうがいい」。一緒にまわってくれていた地元の方がつぶやいたこの言葉は、長谷川さんの胸にストンと落ちました。東京にいると「もっと先がある、もっと、もっと」とよくばってしまう。でも、「それはもう、終わりにしてもいいかもしれない」


→後編へ続きます

→より詳しく読みたい方は、ナチュリラ別冊『幸せに暮らすくふう』をご覧くださいね

in-kyo(いんきょ)

福島県田村郡三春町9
TEL:0247-61-6650
営業時間:10:00~17:00
定休日:水曜・木曜
http://in-kyo.net/
http://kurashi-to-oshare.jp/tags/inkyo/

Profile

長谷川ちえ

Chie Hasegawa

エッセイストとして活躍しながら、独自の視点で生活を楽しむ道具をセレクトした店「in-kyo」を営む。結婚を機に、東京から福島・三春に店を移転。主な著書に『まよいながら、ゆれながら』(ミルブックス)。

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