長谷川ちえさん【後編】リズムは違えど、変わることなくやっています

仕事の壁、暮らしの壁
2018.07.31

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三春で店を開いてみて驚いたのは、お昼どきは、客足が少ないこと。それどころか、目の前の通りまでしんとしてしまうこと。「12時には家でお昼ごはんを食べている方が多いようです。はじめはお昼に街が静かになるのはどうしてだろうと思ったけれど、これが自然なんですよね。お昼には、お昼ごはんを食べる」

長谷川さんも12時過ぎには、家から持ってきたお弁当を広げます。東京では、お客さまのいない時間を見計らって、夕方近くに急いで食べていたお弁当。ときにはそれすら食べるきっかけがなくて、家にそのまま持ち帰ったこともあるお弁当。いまは、ゆっくりと味わいます。

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以前から、雑貨店なのにおいしいコーヒーを飲める、と話題だった「in-kyo」。ここでも同じようにメニューボードを置き、注文が入れば1杯ずつコーヒーを淹れています。最初は「なんのお店だろう?」と、興味深げな様子で窓からのぞくだけだった近所の人が、「ちょっとひと休みしたくて。コーヒーをお願いね」と、訪れてくれるようになりました。

「ここに住む人は、東北らしいというか、真面目で控えめな方が多いんですよね。『お店に入ったら、何かを買ってあげなくちゃ』と考えるようなんです。だから、オープン当初は遠巻きに見ているだけで、なかなかドアを開けてくれなかったんですが、コーヒーが飲めるとわかったら、気軽に入ってきてくれるようになって」

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コーヒーを前にすると、心がゆるむのか、いま悩んでいることや家族の話など、みんなあれこれ話してくれます。それは、近所の人や常連さんが入れ代わり立ち代わり訪れ、たわいもない話をしていた東京の店と、よく似た風景です。そんな東京の友人たちとの縁は、現在も途切れることなく続いています。

「みんな、なんだかんだと遊びに来てくれるんです。はじめての土地に移り住むことを心配してくれていた人たちも、いまの私を見て、『ここに来て、よかったんだね』と安心した顔をしてくれる。それがすごく、うれしいですね」

移転を決めるまで、迷って、悩んで、考え抜いた長谷川さん。だからこそ、その決断には自信があるし、それに支えられている毎日。いま幸せに暮らしていることは、東京の友人たちの目にも、明らかだったようです。

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「こちらに来て1年。私も少し肩の力を抜けるようになってきました。最初は、せっかく福島に店を出すのだから、と地元の手仕事の品をいろいろと調べたし、前の店とは違うものを、とも考えていました。でもあるとき、同じでいいのかもしれない、そう思ったんです。私がやっている店なのだから、無理に変わらなくてもいい。並べるのは、日常の生活で喜んでもらえるもの。結局、『in-kyo』は、10年前のオープン当初からずっと、変わっていないんです」

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<長谷川ちえさんのこれまでの歩み>
20歳  子供服ブランドに就職
29歳  専門学校の雑貨スタイリングコースに1年通う
30歳  広告代理店に転職、憧れの人のワークショップに通い始める
31歳  出版社に自分の企画を持ち込む
33歳  初の著書『おいしいコーヒーをいれるために』(メディアファクトリー)を出版
36歳  離婚
38歳  東京・蔵前に、器と生活道具の店「in-kyo」をオープン
43歳  近所に店を移転
46歳  結婚
47歳  福島・三春に引っ越し、店を移転


→より詳しく読みたい方は、ナチュリラ別冊『幸せに暮らすくふう』をご覧くださいね

in-kyo(いんきょ)

福島県田村郡三春町9
TEL:0247-61-6650
営業時間:10:00~17:00
定休日:水曜・木曜
http://in-kyo.net/
https://kurashi-to-oshare.jp/tags/inkyo/

Profile

長谷川ちえ

Chie Hasegawa

エッセイストとして活躍しながら、独自の視点で生活を楽しむ道具をセレクトした店「in-kyo」を営む。結婚を機に、東京から福島・三春に店を移転。主な著書に『まよいながら、ゆれながら』(ミルブックス)。
http://in-kyo.net/
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