平松洋子さん vol.1「料理名にとらわれず、素材の持ち味を生かす名のない料理を作る」

大人暮らし これからの食卓
2019.02.18

子どもが独立して、夫婦ふたりの生活に。仕事や暮らしのスタイルを今の年齢に合った形に変えようと思いつく……そんな人生の節目は、ふとした瞬間に訪れます。これからの日々は「のんびり自分流に」と、暮らしや考え方を切り替える方も多いようです。特に個性が際立つのが、日々の食卓。体調や食の好みが変わってくる年代に差しかかることもあり、心も体も健やかに過ごせる“今の自分にちょうどいい食事”が、それぞれ定まってくるのかもしれません。
そこで「暮らしとおしゃれの編集室」では、食まわりの仕事をする素敵な先輩方に、年を重ねた今、日々の食卓にどんな変化があったかをお聞きしてみました。連載初回は、エッセイストの平松洋子さんが登場。新刊『これからの暮らしと食卓』でも詳しくご紹介していますので、ぜひあわせてご覧くださいね。

 

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「電子レンジを手放したのは今から20年くらい前だったかな。子どもが小さい頃は何かと頼りにしていたけれど、当時の電子レンジは結構な大きさで、小さな台所で幅をきかせていたんです。どうするか悩みつつ、家族が使っているかどうか見ていたけれど、どうも誰も使っていない……。それで、うちにはもう必要ないなと思って」

17年ほど前に発売された著書『平松洋子の台所』の中での「電子レンジ捨てるよっ」と家族に宣言するくだりは、センセーショナルなこととして、今なお記憶に残っている人も多いかもしれません。エッセイストとして、食にまつわる取材・執筆を続ける平松洋子さん。60代になった現在も週刊誌をはじめ、月刊誌、新聞など数多くの連載を抱えながら、自身の著書の執筆も……と忙しい日々を送っています。著書の大半が食に関するものということもあり、自身の食卓も常に注目され続けてきました。

「電子レンジのことは、自分ではごく当たり前の選択だったのですが、まわりがあまりにも驚いていたことに、逆にびっくりしました。目の前のことや現在のことも大事だけれど、自分自身の生活をもっと広い視野で客観的に見るのも大切なこと。今なぜ、自分がこうあるのかは、いろいろな考えや理由、状況を踏まえて、ひとつひとつ選択してきたからこその結果。人生は取捨選択の連続です。それによって日々は自在に変化するし、動いていく。変わることを恐れないのは大事だなって思います。それさえスムーズにしていれば、よりシンプルに暮らせるはず。電子レンジをなくしたことも、そういった選択のひとつであり、人生の通過点だと思っています」

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60代になったからこうしなくてはと決め込むことはせず、その時々の状況で日々、変化していくことを受け入れ、楽しんでいる平松さん。最近の食について尋ねると、野菜中心にはなったけれど、今でもお肉は好きだし、よく食べるそう。ただし、外食は昔ほど頻繁ではなくなり、多くても週2回。毎日続かないように気をつけるようになったのも、自然の成り行きであり、変化だったといいます。

そんな平松さんの食卓にちょくちょく登場する料理は、手間ひまかけない、冷蔵庫に比較的いつもある素材で作れるもの、そして、季節の素材をシンプルに味わうもの。冬になれば白菜や大根を、春には菜の花や山菜など、頭で考えなくても八百屋さんの軒先が教えてくれ、あぁと納得のいく、そんな料理が並びます。そのほとんどが、季節の素材を蒸したり、焼いたり、ゆでたりして、塩や味噌、オリーブオイルで少しの味つけをするだけの潔いもの。旬のものは素材の味がしっかりしているから、そこを頼りに料理をする日々になりました。

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「そういえば、たとえば麻婆豆腐のように、ちゃんと名前がある定番料理のようなものは、あまり作らなくなったかもしれません。レシピもほとんど見ませんね。ここ数年、よく作っているものといえば〝名前のない料理〞ばかり。季節の素材を中心に料理をしていると、自然とそうなっていくようです」名前がなくても、レシピに頼らなくても、素材をおいしくする手法を知り、季節のものを使えば、ちゃんとおいしい料理になるのです。

「もちろん『今日はしょうが焼きを食べたいな』と、具体的な名前が出てくることもたまにはありますけどね(笑)」季節の素材は勢いがあって、価格も安い。そこに自分が寄り添えばいいだけ、と気づいてからは、毎日の献立をそれほど綿密に考える必要がなくなったといいます。頭より手が先に動くという感じ、といいます。

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「“これから”の暮らしと食卓」より
photo:齋藤圭吾 text:赤澤かおり


→vol.2につづきます

Profile

平松洋子

エッセイスト。日本とアジアを中心に、世界各地の食文化と暮らしを取材、執筆している。『週刊文春』『GINZA』『dancyu』『北海道新聞』などに連載を持つ。著書も多く、最新刊は『そばですよ』(本の雑誌社)。

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