春を告げる、江戸の桜もち「長命寺桜もち 山本や」

●江戸の花見は、桜もちとともにそろそろ春分、陽ざしもぐっと春めいてきました。春のお楽しみといえば、やはりお花見でしょうか。江戸落語「長屋の花見」にあるように、江戸っ子がこぞって楽しんだお花見。江戸の行楽地づくりに力をいれた八代将軍・徳川吉宗は、桜の名所として向島隅田堤に多くの桜を植樹します。春になると桜が一面に咲きほこり、「長堤十里花の雲」とも言われ、江戸市民で賑わいました。 桜の葉で包まれた「長命寺桜もち 山本や」の桜もち/200円。お店でいただく場合は、お茶とセットで300円。(*3月、4月の販売は予約優先。店内喫茶は中止の場合もあり) 享保二(1717)年の創業以来、桜もちだけで商いを続ける「長命寺桜もち 山本や」。初代の山本新六は、隅田堤の桜の葉を塩漬けし、それを使った桜もちを考案。長命寺の門前で売り始めたところ、花見客がこぞって買い求めるようになります。文政七(1824)年には、一年間に三十八万五千個の桜もちが売れた!という記録まで残っているそう。 店に飾られた安政元(1855)年の古地図。長命寺の横には“名物サクラモチ”の文字が!  ●時代を超えて愛される、江戸の名菓代々創業の地で店を続け、今では十一代目店主が暖簾を受け継いでいます。ご店主が手掛ける桜もちは、真っ白な薄い皮でこし餡を包んだ関東風の桜もち。小麦粉でつくる薄い皮はぷるんと柔らかな口あたりで、北海道産小豆を使ったこし餡は香りよくなめらかな舌触りです。 浮世絵にも描かれる「長命寺桜もち 山本や」の篭詰め。お江戸気分をあじわえる、持ち帰り用の篭詰セット・十個入り/2,500円。(3月、4月は予約必須)桜の葉を2、3枚使って餅を覆い包むのも店のこだわり。ほどよく桜の香りがうつり、桜もちの乾燥を防ぐ効果も。昔は桜の葉の塩漬けまでお店で行っていたとか。今では西伊豆の契約農家が手掛けた、オオシマザクラの葉の塩漬けを使っているそうです。 創業以来、隅田川を望むこの地で「桜もち」だけで商いを続ける。 かぐわしい桜の香りや品のよい姿を楽しみながら、いただく桜もち。昔も今も春を告げる名菓として、ひとびとに愛されています。 *商品すべて税込、2019年3月現在のものです。 text&photo:森 有貴子←その他の「大人の江戸あるき」の記事はこちらから