江戸な甘味でひと心地 「甘味処 初音」

大人の江戸あるき
2019.05.28


●川開きにならって“ひんやり甘味開き”

江戸のころは、旧暦5月28日といえば「両国の川開き」。この日から川終いの8月末まで、川には花火が打ち上がり、両国広小路には夜店が建ち並びました。ひと仕事を終えた人々が隅田川での夕涼みする姿は、江戸の夏の風物詩でした。

 

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甘味の代表といえば、あんみつ。あんみつの品書きが豊富な初音。お客さんの希望から定番のメニューになったものもあるとか。

 

さて東京でも夏らしいご陽気となり、“ひんやり甘味開き”の季節がやってきました。最近では年中お品書きにあるとはいえ、夏の時期にいただくあんみつや豆かんは風情があっていいもの。日本橋人形町の「初音」は、江戸は天保八(1837)年創業の甘味処です。ノスタルジックで落ち着いた店にぴったりな愛らしい名は、初代が歌舞伎の「義経千本桜」に登場する「初音の鼓」にちなんでつけたとか。

 

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昭和38年に建てられた初音の店内。誰もが寛げる心地よい店には、男性のおひとり様も多いとか。

 

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窓ガラスや仕切りガラスなどには、初音の鼓をイメージした鼓の意匠がほどこされている。

 

●名物あんみつと江戸らしい豆かんを

初音の名物といえば、あんみつ。粘りのあるこし餡と口のなかでほどけていく柔らかな寒天が特ち味です。十勝産の特級小豆は砂糖多めに炊き、練り上げて一晩寝かせ、しっかりと甘い粘りのあるこし餡に仕上げます。甘味や粘りのある餡は、水気の多い柔らかな寒天とあわせたときに、ほどよい味わいに。「餡だけがおいしければいいのではなく、寒天や果物など一緒に食べるものとのバランスが大事」と、八代目店主の石山美由紀さん。

 

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レトロなガラス鉢に盛られた白玉あんみつ/900円。なめらかなこし餡と小ぶりな寒天、もちもちした白玉にたっぷりと蜜をかけていただく。

 

また東京らしい甘味の豆かんは、あんみつに負けず劣らず人気のお品書き。歯ざわりを楽しめるように仕上げた、少し塩っ気のある赤えんどう豆とふるふるした寒天に、甘い蜜をたっぷりかけていただきます。あんみつも豆かんも甘味にかける蜜が選べるのはうれしい。すっきり食べるならば白蜜、風味を楽しみたいなら黒蜜がおすすめだそう。

 

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ぷちぷちっとはじける豆と柔らかな寒天が絶妙なハーモニーを奏でる豆かん/700円。
こし餡やつぶ餡など、品書きにあるものはトッピングが可能。ちなみに初音のつぶ餡は、小豆の蜜煮のような品のよい味。豆かんのトッピングにもアリです。

 

創業時とほぼ変わらぬ場所で代々営業を続ける初音。多くの出店依頼があるなか、「代々受け継いだ味をお客様においしく食べていただきたい。お菓子はできたてが一番おいしいから」と、店での商いにこだわります。ここでしか味わえない甘味処で“ひんやり甘味開き”しませんか。

 

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明治半ばから、茶釜で沸かしたお湯で煎茶のおもてなし。まろやかでおいしい一服を。

 

*商品すべて税込、2019年5月現在のものです。


text&photo:森 有貴子


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初音

東京都中央区日本橋人形町1‐15‐6
TEL:03‐3666‐3082
営業時間 11:00~20:00(月~土曜)、11:00~18:00(日・祝日)
休日 年末年始

Profile

森有貴子

Yukiko Mori

編集・執筆業。江戸の老舗をめぐり、道具と現代の暮らしをつないだ『江戸な日用品』を出版、『別冊太陽 銀座をつくるひと。』で日本橋の老舗について執筆(ともに平凡社)。落語、相撲、歌舞伎、寺社仏閣&老舗巡りなど江戸文化と旅が好き。江戸好きが高じて、江戸の暦行事や老舗についてネットラジオで語る番組を2年ほど担当。その時どきで興味がある、ひと・こと・もの、を追求中。江戸的でもないですが、instagram morissy_edo も。

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