【菓子研究家・加藤里名のフランス菓子の旅①】思い出のマドレーヌ

2020.12.11

はじめまして。菓子研究家の加藤里名と申します。私は会社員として何年か働いた後、渡仏してコルドンブルー・パリ校にてフランス菓子を学びました。現在はお菓子教室を主宰しながら、書籍を作ったり、焼き菓子の販売をしております。

1年半のフランス生活の中では、休みのたびにヨーロッパやフランスの各地を訪れ、たくさんのお菓子を食べ歩いていました。お菓子のストーリーや作り手の想いを知る度にいっそう食べる楽しみが増え、すっかり地方菓子に魅了されてしまったのです。今でも定期的にさまざまな地方へと出向いています。

2016年夏、避暑地として有名なアヌシーにて

この連載では、お菓子を作るためのテクニックだけでなく、その土地の文化や風土、歴史との結びつきといったお菓子のストーリーや、現地の雰囲気、今のトレンドなどを、簡単なレシピを添えて、お伝えできたらと思います。

第1回目のテーマは「マドレーヌ」。まだ私が子どもだったころ、母がおやつによくマドレーヌを作ってくれていて、未だにその焼きたてのマドレーヌの味を思い出すことができます。日本でも馴染みのある貝殻の形をしたこのお菓子は、諸説ありますが、フランスのロレーヌ地方のコメルシーという街が発祥で、ある女性が生み出したと言われています。

ロレーヌ地方・ナンシーのスタニスラス広場とスタニスラス像

広場のシンボルであるネプチューンの噴水と鉄門

18世紀後半この地を治めていたスタニスラス・レクチンスキーが、ロレーヌ公国のお城で主催した宴会でのこと。パティシエが料理長と喧嘩して帰ってしまい、お手伝いの「マドレーヌさん」が、ありあわせの材料、ホタテの貝殻でお菓子を焼いたら大好評。美食家として知られるスタニスラス公がとても気に入り、その評判はパリへ伝わって、その後フランス全土へ広がったと言われています。

パティシエではなく、ハプニングから偶然作ったお手伝いさんからお菓子の名前がつけられたというところにどこか親しみを感じます。

フランスの地方菓子は、発祥の地で当時のお菓子の味を今でも作り続けているお店が多く、マドレーヌ発祥のコメルシー産のものは「コメルシーのマドレーヌ」として、地名込みでの名称で親しまれています。私もコメルシーの訪れた際には街にある大きなマドレーヌ工房を訪れました。街の中心から歩いて15分ほどにある「ボワット・ア・マドレーヌ(La boîte a Madeleines)」の工房では、ガラス越しに作業風景を見ることができます。

ボワット・ア・マドレーヌの工房

しっとりした生地に仕上がるようにはちみつやや転化糖をたっぷり入れていく

所狭しと並ぶマドレーヌは、袋に大量に詰められているものも多く、プレゼント用というよりかは家庭で食べるお菓子というイメージを受けました。プレーン味のほか、特産品であるミラベルという果物入りのものなど、バリエーションは豊かです。

マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』には、主人公が紅茶とマドレーヌを口に入れた瞬間、幼い日の記憶が鮮やかによみがえるという有名なシーンがあります。青春時代を社交界の華やかなサロンで過ごしたプルースト自身も、マドレーヌはお気に入りのお菓子だったようで、毎朝マドレーヌに牛乳を浸して食べていたそうです。

プルーストがよく訪れたパリのオテルリッツパリ(Ritz Paris)には現在彼の名前がつけられた「サロンプルースト(Salon Proust)」があり、アフタヌーンティを頼んだ時に最初に出されたのは牛乳に浸したマドレーヌでした。

オテルリッツパリの「サロンプルースト」。大きなテーブルにずらりと並べられたアフタヌーンティの焼き菓子は圧巻

真っ先に出されるのが牛乳に浸したマドレーヌ。ちなみにアフタヌーンティはで68ユーロ(当時)

器までマドレーヌがあしらわれている

マドレーヌを牛乳にひたしてしまう感性にびっくりしますが、フランス人にとってはマドレーヌやパンを紅茶や牛乳に浸して食べるのはごく普通のことのようで、フランスのパティスリーでスタージュ(見習い)をしていた頃、パティシエたちが朝食のパンを紅茶に浸して食べているのをよく見かけました。湿気が少ないフランスでは、パンがすぐに乾燥してしまうので、浸して食べるのかなと考えています。

さて、焼きたてのマドレーヌお家で食べたくなってきました。今日はシンプルな材料で作れるマドーレーヌのレシピをご紹介します。

 

シンプルなマドレーヌのレシピ

 

材料(約10個分)

バター(食塩不使用) 65g

はちみつ 20g

牛乳 20g

全卵 1個

グラニュー糖 50g

レモンの皮(すりおろし) 1/2個分 

バニラエッセンス 少々

A
|薄力粉 65g
|ベーキングパウダー 3g

 

下準備

・薄力粉とベーキングパウダーは合わせてふるう。

・マドレーヌ型にはけでバター(分量外)を塗り、強力粉(分量外)を薄くはたく。

・オーブンはほどよいタイミングで170℃に予熱する。

 

作り方

1 鍋にバター、はちみつ、牛乳を入れて中火で熱し、バターが溶けたら弱火にして、温かい状態を保っておく。

2 ボウルに全卵を入れて泡立て器でほぐし、グラニュー糖、レモンの皮、バニラエッセンスを順に加え、そのつどよくすり混ぜる。

3 Aを一度に加え、ゴムべらで下からすくい上げるようにして、つやが出るまで混ぜる。

4 1を3回に分けて加え、そのつど泡立て器で円を描くようにしてすり混ぜる。冷蔵庫に30分ほど入れて冷ます。

5 型にスプーンで4を8分目まで入れ、予熱したオーブンで15分ほど焼く。中央が盛り上がって、指で押すとほどよい弾力があればできあがり。型からはずし、網に上げて冷ます。

 

text & photo 加藤里名

撮影 公文美和

菓子研究家。大学卒業後、会社員として働きながらイル・プルー・シュル・ラ・セーヌでフランス菓子を学び、退職後に渡仏。パリのLE CORDON BLEUの菓子上級コースを修め、その後は人気パティスリー、LAURENT DUCHÊNEにスタージュとして勤務。帰国後は2015年より東京・神楽坂にて洋菓子教室SUCRERIESを主宰。伝統的なフランス菓子のみならず、最新のトレンドを踏まえた洋菓子を、教室、SNS、書籍などで広く発信している。著書に『ナンバーケーキ』(主婦と生活社)、『はじめてのクッキー缶』(家の光協会)、『レモンのお菓子づくり』(誠文堂新光社)など

Les Sucreries de Rina Kato

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