第23回 この世でいちばん好きな母の作る「粕汁」

夏井景子さんの想い出の味
2022.09.30


誰かの好きな食べ物の話を聞く事が好きだ。
好きな食べ物の話をする時って、その食べ物がどうおいしいかとか、それを食べた時のシチュエーションとか、みんな目をキラキラさせたりして、ちょっと懐かしそうに話してくれる。

好きな食べ物について質問すると、だいたい同じ質問が返ってくる。好きな食べ物を聞かれた時の私の答えは、決まっておみそ汁。そう、私のいちばん好きな食べ物はおみそ汁なのだ。

お鍋に湯を沸かして、野菜とかつお節を入れる。毎日おだしをきちんととったりはしないので、一緒にかつお節を入れて、そのまま食べてしまう。

いつも何かしら冷蔵庫に野菜が残っているので、割と何でも入れる。今の季節だったら、なすやみょうが、ゴーヤなんかも薄切りにして入れる。

あとは、わかめやあおさ、ひじきなんかもみそ汁に入れる。海藻の入ったおみそ汁って、おだしになってとてもおいしいと思う。

野菜を切ることすら面倒な時は、即席おみそ汁スタイルで、お椀にかつお節とおみそを入れて、お湯を注ぐインスタント式のおみそ汁もよく飲む。あれば、大葉を手でちぎって加えたりして(まな板すら使いたくない時)、日々おみそ汁を飲んでいる。

そして、そのおみそ汁の中でもいちばんなのは、母の作る粕汁。この世においしいものは溢れているけれど、私の中では、あの粕汁に勝るものはないくらい、好きな食べ物。

里いも、大根、にんじん、れんこん、ごぼう、きのこ、こんにゃく、鮭、鶏肉、油揚げなど、とにかく具だくさんで、酒粕たっぷりにみそ、そして長ねぎも忘れてはいけない。

具だくさんな上に酒粕もたっぷり入れるので、みそ汁だけれど、汁というよりも、ちょっとどろっとした本当に具だくさんなおみそ汁。そして、食べる時にふりかける七味。これも粕汁をおいしくさせるポイントだ。


帰省すると、大きな大きなお鍋に満杯に作ってくれる。それなのに、みんな毎食2、3杯は飲むので、翌日にはなくなってしまう。

私がこの世でいちばん好きな食べ物。

人生の最後に何か食べられるとしたら、私はこの母の粕汁が飲みたい。でも、私の最後の晩餐が母の粕汁であってはいけないことは、わかっている。だから私は、今のうちになるべくたくさんこの粕汁を飲んでおこうと思う。

ここ数年の自粛期間中、帰省がなかなかできなかったので、何度か母に頼んで、とんでもなく大きいタッパーに粕汁を作って送ってもらった。こんなに食べられるかな…と届いたタッパーの大きさに心配しつつも、3日も経たずにきれいに食べ終わってしまった。

久しぶりに食べた母の粕汁は、やっぱりとてもおいしい、私がこの世でいちばん好きな想い出の味だった。

 

※夏井景子さんの連載は、最終回となります。これまで連載を楽しみに読んで下さった皆様、ありがとうございました。

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Profile

夏井景子

KEIKO NATSUI

1983年新潟生まれ。板前の父、料理好きの母の影響で、幼い頃からお菓子作りに興味を持つ。製菓専門学校を卒業後、ベーカリー、カフェで働き、原宿にあった『Annon cook』でバターや卵を使わない料理とお菓子作りをこなす。2014年から東京・二子玉川の自宅で、季節の野菜を使った少人数制の家庭料理の料理教室を主宰。著書に『“メモみたいなレシピ”で作る家庭料理のレシピ帖』、『あえ麺100』『ホーローバットで作るバターを使わないお菓子』(ともに共著/すべて主婦と生活社)など。 
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Instagram:natsuikeiko

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