刺繍作家・a t s u m iさん(前編)~続ければ続けるほど刺繍は面白くなっていく

”つくる人”を訪ねて
2016.08.10

雑貨からおいしいものまで、衣食住にまつわるさまざまな“つくる人”を訪ねるマンスリー連載、今月は独自の世界観が人気の刺繍作家・a t s u m iさんを訪ねました。

 

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photo:有賀 傑 text:田中のり子 撮影協力:手紙社

 

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糸と針を用い、さまざまな模様を描く刺繍は、世界各国で古くから作られてきました。日本でも伝統工芸として京刺繍、江戸刺繍などが知られており、戦後の手芸ブームで幅広く知られるようになったフランス刺繍もまだまだ人気。民藝ブームで注目を集めるようになった「こぎん刺し」など刺し子も刺繍の一種です。そんな中、「今の時代の、私たちが好きな刺繍はコレ!」と思わせてくれる、センスとデザイン性を併せ持った作品を発表しつづけているa t s u m iさん。

 

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彼女の刺繍を、広く知らしめるきっかけのひとつとなったのが、こちらのエンブレム。写真は10年ほど前に手掛けたもので、ご本人は「今見ると、技術的に稚拙で恥ずかしい」と謙遜しながらも「今でも自分が心から『好き!』と思える要素が、詰まっている」といいます。ヨーロッパの紋章からインスピレーションを受けつつ、自由なデザインと多彩なステッチ、大人っぽい色合わせで、オリジナルな存在感を放ちます。ブローチとして服のアクセントにするのはもちろん、バッグや帽子につけたり、冬にはショールの留め具として活用したり。使い手によって、いろんな楽しみ方ができそうなところも魅力です。

 

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この日のa t s u m iさん、ストライプ柄ブラウスの胸元にはご自身の刺繍エンブレムが。やさしげな印象のブラウスにサスペンダーとエンブレムでボーイッシュな味付けをしているバランスが素敵でした。

 

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お手製の刺繍ピアスは片耳だけに。コットンパールのまろやかな輝きと引き立て合うのは「ロング&ショートステッチ」の組み合わせ。手仕事の温かみがありつつも、色使いや素材合わせが洗練されたデザインです。

 

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こちらはアパレルブランド「kitica」と2012年にコラボレートしたバッグ。a t s u m iさんがデザインした機械刺繍に、さらに手仕事でのビーズ刺繍を組み合わせたもの。パンツ+スニーカーという少年っぽいコーディネートの新鮮なスパイスになっています。甘さ控えめで取り入れることで、より刺繍の存在感が生きてくる、お手本のようなスタイルでした。

 

 

取材にお邪魔したのは、東京・調布にある「手紙社」の展示室で行われる「表現の学校」の開催日。テーマは「ステッチのレッスン~サンプラー(刺繍見本)が紡ぐ、刺繍の魅力」ということで、さまざまな年齢層の女性が参加されていました。

 

サンプラーとは、古くは15世紀にさかのぼる歴史があると言われている、さまざまなステッチの練習と披露を目的に作られた作品のこと。ヨーロッパの美術館や蚤の市などでも時おり、昔の女性たちが手掛けたサンプラーを目にする機会があります。このサンプラーを、a t s u m iさんがブックタイプにデザイン。道具の使い方からさまざまなステッチの技術までを学びつつ、サンプラーを仕上げていくことによって、刺繍の魅力に迫るというレッスンです。a t s u m iさんの真面目さも感じさせるひたむきなステッチが、サンプラーでも表現されています。

 

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黒板に図案を描いたり、実際にサンプルを用いながら、それぞれのステッチを解説するa t s u m iさん。針を入れる方向やステッチの幅など、ちょっとした工夫によって美しく仕上げるコツを分かりやすく説明します。参加者の方からは、刺繍をしているときの姿勢や糸の通し方といった基本的な質問も出て、積極的な意見交換も。ときには笑い声が上がり、ときには黙々と。穏やかで、豊かな時間が流れていました。

 

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「できるだけ早く、ラクチンに」と、効率的であることを求められがちな今の時代。考えてみると刺繍というものは、その真逆を行うこと。けれども、参加者の方々の心から楽しそうな様子を見ていると「豊かさ」と「効率は」決してイコールではないことを、改めて気づかせてもらえます。

 

「若い頃は生真面目で、一歩一歩納得しないと前に進めない自分の性格が、あまり好きになれなかったんです。けれど、そんな欠点のように思える部分も、刺繍をする上では利点になるんです。ひと刺しひと刺しの歩みは、決して裏切らないし、信用できる。私が刺繍を続けてこられたのも、刺繍というものの速度感が、自分に合っていたことが大きかったのだと思います」

 

“つくる人”を訪ねて 刺繍作家・a t s u m iさん(後編)につづきます

 

 


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Profile

a t s u m i(あつみ)

多摩川美術大学卒業後、アパレルメーカー、同大学に勤務ののち、刺繍作家としての活動を始める。著書に『刺繍のはじめかた』(マイナビ)『刺繍のいろ』(BNN新社)『ことばと刺繍』(文化出版局)など。2016年10月にエンブレムをテーマにした新刊が文化出版局から発売予定。http://itosigoto.com/

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