揺らがぬおへそ ― 「蓼科バルノート・シンプルズ」萩尾エリ子さん vol.2
今できることを、今する
花を摘んで誰かに贈ること。
一緒に庭を歩いて、緑の気配を感じること。
あたりを見渡せば、きっとできることがひとつ見つかる。
お店が軌道にのり、なんとか食べていけるようになったのは、オープンして20年がたった頃からなのだとか。途中、レストランを経営したり、閉店したりと、いろんなことがありました。不安はなかったのですか? と聞いてみました。
「『今日元気だったらいい』と思ってやってきたんです。今日大丈夫だったら、きっと明日も大丈夫って」
そんな萩尾さんのもうひとつのライフワークが、緩和ケア病棟や精神科病棟などでのボランティア。夫の病気の折にも役立ったといいます。
「病室で香りをたいたり、庭で摘んだハーブの花束を持っていくと『いい匂いだなあ』と喜んでくれましたね」
夫をみとったあとも、友人が病に伏せると香りの贈り物を。
「香りって魂の食べ物になってくれるんですよね。だから食事が取れなくなった友人に、朝はグレープフルーツとオレンジ、お昼はコリアンダーとペパーミント、おやつにはバニラを少し。三食とおやつの香りを贈りました」
今でも暮らしに香りを取り入れて。
「近所のスーパーで買ったハーブをもんで匂いをかいでみるだけでいい。それは息を吸うってことでもあるんです。特に疲れていたり、悲しいときって、香りは言葉を超えて、きゅっと心に入ってくれるから」
お昼前には、萩尾さんは自宅から歩いてお店に通ってきます。お客さまが元気がなかったら、さっと庭で花を摘んで手渡したり、季節ごとのブレンドティーを飲んでいただいたり。ハーブやアロマテラピーの講座には日本各地から学ぶ人が集まります。
「30年、40 年と時間をかけてやってきました。いつも目の前のことを心を込めてやっていただけなんです。ああ、今日咲いた花がきれいだなあ、だけでいいのよ」
私たちを支えてくれる確かさ、揺るぎなさとは、ふと気づけば足もとにあるものなのかもしれません。
花束を贈る
手のひらにのるぐらいの小さな花束は相手に負担をかけず
香りと気持ちを伝えてくれる。
思い立ったらすぐに花束を贈れるように、グラシン紙、コットン、ビニール袋、輪ゴムをセットして常備。人さし指と親指を輪っかにして、その中に入る量で花束を。根もとは水で濡らしたコットンで覆って輪ゴムで留め、小さなビニール袋をかぶせてからグラシン紙でラッピング。
手のひらにのるほどの小さい花束は、相手の負担にならず、身近なカップなどに飾ることができる。
部屋のあちこちに置いて最後の一輪まで愛おしむ
花束を作ったときに間引きした花などは、小瓶に挿して飾る。命を愛おしむ萩尾さんの心がそこに宿っているよう。
好きな香りの花を髪飾りに
歩きながら、そのとき咲いている花を髪に飾る。この日は、萩尾さんがいちばん好きなハーブ、リンデンフラワーを。
『暮らしのおへそ Vol.30』より
photo:寺澤太郎 text:一田憲子
Profile
萩尾エリ子
長野県茅野市でハーブショップ「蓼科バルノート・シンプルズ」を営む。1992年~ ’99年に開いていたレストランは、庭や畑からやってきた食材をランチにし、多くの人を魅了。諏訪中央病院や諏訪赤十字病院精神科では、園芸作業やアロマを中心にしたボランティアを行っている。
https://www.herbalnote.co.jp
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