第4回 初めて誰かのために作った、そぼろ弁当

夏井景子さんの想い出の味
2021.03.11


私は小中高校と、お弁当生活をしたことがない。あってもたまの土曜日の部活の時に、母に作ってもらうくらい。高校も、珍しく給食のある学校だった。
働き始めてからも、飲食店はまかないがあるため、お弁当を作ることはほぼない。今もひとり暮らしで、家で仕事をすることが多いので、日々お弁当を作るという行為に今でも憧れがある。そして日々お弁当作りをしたことがないゆえに、私はお弁当というものを作る時にちょっと緊張してしまう。作ったおかずを目の前に、味つけや詰め方に心配になることも多い。

料理教室のメニューをふり返っても、割と私は汁けがあるものをよく作るので、お弁当向きなメニューも少ない気がする。でもたまに教室で、「これはお弁当に良さそうですね!」と生徒さんに言われると、とてもうれしくなる。日々お弁当作りをしている方にお弁当にいいと言われると、私のお弁当作りへのハードルが少しずつ低くなっていく。

最近、ずっと欲しいと思っていたカメラを買った。これできれいなお料理の写真を撮るぞ!と張り切っている。10年ほど前まではデジカメを持っていたけれど、iPhoneに変えてからはデジカメを持つことはなくなり、久しぶりのカメラだ。

少し前に大掃除をした時に、SDカードがいくつか出てきたのだけれど、カメラもないし中身の写真にも記憶がなく、たださすがに捨てるのは躊躇し、そのまましまっておいた。今回カメラも買ったことだし、昔のSDカードの中身を確認しようと、カメラに入れて再生ボタンを押した。

中身は、だいたい10年から15年ほど前のものだった。懐かしいなぁ、眉毛細いなぁ、なんて呑気に見ていたら、お弁当の写真が1枚。鶏そぼろと炒り卵、真ん中にそら豆、ピーマンの入ったきんぴらごぼう。私が誰かのために作った、初めてのお弁当だった。


お弁当を作った相手は、毎日毎日朝から終電まで働いているとても忙しい人で、もちろん自炊などする余裕もなく、とても少食で細身な人だった。一緒に牛丼を食べに行っても、その人は小盛り、私は普通盛りで、だいたい私のほうに小盛りが出され、「そうだよね」と笑いながら牛丼を交換して食べていた。
食べるスピードも、とてもゆっくりな人だった。普段、飲食店で短い休憩の中、急いでごはんを食べていた私は、気がついたらだいたいその人より先に食べ終わってしまっていた。
そんな忙しい人に、私はお弁当を作った。まだ料理を始めたばかりでお弁当経験の少ない私が、失敗せずに作れるお弁当は、炒り卵と鶏そぼろくらいだった。

写真を見返すと、お弁当に慣れていないことがとてもよくわかる。まず炒り卵が固そうだし、お弁当のふたで卵を挟んでしまっている。それに、鶏そぼろときんぴらごぼうって、同じ甘辛味じゃないか。

あぁ今の私が代わって作りたい。もっと味のバランスとか、見た目の彩りとか、ご飯とおかずの量とかとか…添削しだしたらきりがない。でもいちばん添削したいポイントは、このお弁当を2つ渡したこと。全く同じお弁当を2つ。
写真ではわかりづらいけれど、このお弁当箱は少し小さめで、これで足りるかな…と心配になり、2つ作ってしまったのだ。

私は、同じお弁当を重ねて手渡した。ありがとうと言って、その人は2つのお弁当を見比べた。同じお弁当を2つ?何故…?という表情を、一瞬したようなしなかったような、記憶は曖昧だ。けれど確か夜に電話がきて、「美味しかった、ありがとう」と言ったあとにくすくす笑いながら、「でもお弁当2つ食べたから、お腹いっぱいで夜ごはん食べられない」と言われて、そうだよねと2人でゲラゲラ笑った気がする。

そのあとも度々お弁当を作った。いちばん最後に作ったお弁当に入れた唐揚げは、たしかネットで【唐揚げ 美味しい】とかで検索して、忠実に作った記憶がある。そしてその唐揚げが本当に美味しくできて、春先の公園で一緒に食べて、「美味しい!」って2人で感動したっけ。

1枚の写真から、色々な記憶が蘇ってしまった。

今の私は、炒り卵もきっともっと美味しく作れるし、鶏そぼろをご飯にのせたら、脇には甘辛じゃないおかずをきっと添える。そして、同じお弁当を2つ渡したりもしない。でもあの時もそうできていたら、こうやって何も思い出さなかった気もする。


一度抜いたSDカードを再び入れて、お弁当の写真をもう一度見返す。うーん、添削したいだなんて、とても傲慢だった。やれやれ。

もう春もすぐそこだし、お弁当に向いているおかずをもっと考えよう。なんだか眠れなくて、iPhoneのメモにこのエッセイを書いている。

 

【夏井景子さんの想い出の味③】はこちら

 

Profile

夏井景子
Keiko Natsui


1983年新潟生まれ。板前の父、料理好きの母の影響で、幼い頃からお菓子作りに興味を持つ。製菓専門学校を卒業後、ベーカリー、カフェで働き、原宿にあった『Annon cook』でバターや卵を使わない料理とお菓子作りをこなす。2014年から東京・二子玉川の自宅で、季節の野菜を使った少人数制の家庭料理の料理教室を主宰。著書に『“メモみたいなレシピ”で作る家庭料理のレシピ帖』、『あえ麺100』『ホーローバットで作るバターを使わないお菓子』(ともに共著/すべて主婦と生活社)など。 
http://natsuikeiko.com   Instagram  natsuikeiko

 

 

 

 

 

 

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