伝統工芸のからむし織作家・ますみえりこさんの「寅さんネックレス」
~in-kyo(インキョ)より vol.6~
からむし織作家のますみえりこさんに、二度目くらいに会ったときだったろうか。ますみさんが首から提げているものに目が釘付けになった。それが高級ブランドのアクセサリーだったらそんなこともなかったのだろうが、会話をしながらも気になって気になって仕方がなくなり「さっきから気になっていたんですけど、そのかわいらしいものは何ですか?」と言葉が口をついて出た。
それは「寅さんネックレス」と名づけられた、ますみさんのオリジナル作品。からむし織でバッグや風呂敷などを作る際に出る、織り端の部分を大切に取っておいたものを繋ぎ合わせ、小さな袋状にし、首やバッグなどに提げられるように紐がついている。
映画の寅さんが首から提げているのは本物のお守りだけれども、同じように身につけていたいと思わせてくれる。私はちまちまと小さなものにめっぽう弱い。寅さんネックレスは「からむし織」というものをもっと知りたいと思うきっかけになった。
からむし織とは、からむしというイラクサ科の多年草の植物(苧麻ともよばれる)から採れる繊維(青苧・あおそ)を使った上布織物。からむし織の産地、福島県昭和村ではからむしを育てるための畑、土作りに始まり、収穫後の繊維を取り出す作業が、春から夏にかけて行われる。
その後、繊維を細く裂き、糸を1本1本手で繋いでいく糸績み(いとうみ)という気の遠くなるような作業を経て、糸を丈夫に仕上げるための撚りをかけていく。そしてはじめて地機に糸をかけて織り始めることができるのだ。
雪深い奥会津の昭和村では、農作物を育てるのと同じように一年を通して季節ごとの仕事があり、糸績みから機織りの作業は、冬の仕事として行われている。
ますみさんは昭和村で行われている「織姫制度」で実際に山村暮らしをしながら、からむし織の技術や作業だけでなく、人生の大先輩であるおじいちゃんやおばあちゃんからたくさんのことを学んだそうだ。
「平らな心が平らな糸をつくるんだよ」
糸がこんがらがってもイライラしないで
「いい子だねぇって話しかけてみな」
ますみさんが教えてくれた、おばあちゃんとの会話。
静かに黙々と糸績みをするますみさんの手は喜んでいる。糸が績まれる(生まれる)ように、今も大事に継がれている手仕事と暮らしの素晴らしさを、小さなカケラたちが使い手へときっと繋いでくれる。
日々の暮らしの中で、月日をともに積み重ねたくなるような器や生活雑貨が並ぶ店。日常着や、おいしいもののセレクトも人気。「今日のひとしな」のコラム執筆は、店主の長谷川ちえさん。
福島県田村郡三春町9
TEL:0247-61-6650
10:00~17:00 水曜・木曜定休
http://in-kyo.net
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