バターナイフやしゃもじとしても。渡邊浩幸さんの味噌ベラ
~in-kyo(インキョ)より vol.18~
自分で味噌づくりをするようになって数年になる。東京・蔵前にお店があった頃に、出版社「アノニマ・スタジオ」のスタッフの皆さんと一緒に作ったことがはじまり。地べたにマットを敷いてどっかと座り込み、みんなであれこれおしゃべりをしながら手を動かして、ふっくらと茹で上がった大豆をすり鉢とすりこぎを使ってつぶしていく。ドンドン、ゴリゴリ。まるで婦人会の集まりのようで楽しいなぁと思った記憶が、今の味噌作りにもつながっている。
今はひとりで黙々と地道な作業を行っている。ていねいな暮らしというものに憧れて作っているわけでもなく、どちらかというと大変だなぁと思っている。それならよせばいいのに、作っている自分に対して「私、なんだか頑張ってない?」と変な高揚感が後押しする。
何よりゆっくりゆっくり発酵して熟成されたときの、フルーティーとも感じる香りがたまらない。まぁ結局はなんだかんだとおもしろく、もれなく美味しさもついて来て、毎年(うっかり?)おいこらせと仕込み作業をしてしまうのだ。
私のまわりではもっともっと年季の入った味噌づくりをしている人たちがいる。木工作家・渡邊浩幸さんもそのひとり。毎年何kgの味噌を仕込んでいるのだろう?大きな陶器の樽で仕込んでいるという本格派。豆や塩、麹をあれこれ吟味して、違いを楽しんでいるそうだ。
昨年、渡邊浩幸さんの木工ワークショップを東京・蔵前の「in-kyo」で行なった。「他のお店では行っていないin-kyoならではのものがいいですよね」。内容を決める際、渡邊さんからのお題はプレッシャー半分、嬉しさ半分。
「in-kyoならではってなんだろう…」
悩みに悩んで考えついたのが「ヘラ」だった。スプーンのようでもあり、使い方によってはしゃもじや、バターナイフのようにも使える。便利に使うことができて、自分の手の延長と捉えると、こんなにプリミティブでシンプルな道具はないのではないだろうか。
用途を明確にした方がイメージしやすいということで、私のリクエストによりワークショップは「味噌ベラ」づくりに決定した。その後、渡邊さんの作品に「味噌ベラ」が加わった。小さめのサイズが手に納まりやすく、使いやすい。もちろん味噌に限らず、用途はお使いになる方のご自由で。
日々の暮らしの中で、月日をともに積み重ねたくなるような器や生活雑貨が並ぶ店。日常着や、おいしいもののセレクトも人気。「今日のひとしな」のコラム執筆は、店主の長谷川ちえさん。
福島県田村郡三春町9
TEL:0247-61-6650
10:00~17:00 水曜・木曜定休
http://in-kyo.net
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