一年に一度の季節の味わい。「たべるとくらしの研究所」の保存食
~in-kyo(インキョ)より vol.30~
夏の終わりに今年最後の桃、黄金桃を福島市の「あんざい果樹園」からいただいた。甘くて爽やかな酸味もあり、つるりとした食感はマンゴーにも似て…とにかく香りが良くて、輪郭がはっきりした瑞々しい味わい。なくなってしまうのが惜しくて、最後の晩餐のごとくちびちび食べたいのだけれど、その美味しさに負けて手が伸び、あっという間に食べてしまった。
「一年に一度の季節の味わいは、また来年」
手を合わせるような気持ちで季節の恵みに感謝する。そんな風に考えるようになったのは、「あんざい果樹園」に出会ったお陰だ。
写真提供:たべるとくらしの研究所「キャロットリーフガーリックペースト」
5年前に起きた東日本大震災後、「あんざい果樹園」の次男・伸也さん家族は福島から札幌へ移住をし、お米と野菜を育てる農業と、「たべるとくらしの研究所」をはじめた。
この間には、こんな一文では語りきれるはずのないことが色々ありすぎた。そして今もあり続けている。変わること、変わらないことの多くの中から、自分たちが信じられる揺るぎない根っこと軸を探してしっかりつかみ突き進む彼らの姿には、いつも勇気づけられている。
「たべるとくらしの研究所」では妻の明子さんが作る、畑から採れたての野菜を使った、月ごとに替わるランチメニューと、とびきり美味しい季節のデザートを食べることができる。
デザートは「あんざい果樹園」の果物を使ったものも人気だ。また、以前から作っていたジャムは、種類や味わいも幅を広げ、さらにてんめんじゃんやゆずこしょう、濃縮セロリ…etcと、調味料にまで保存食の品揃えは増えている。
果物の旬の時期が過ぎる頃、またその果物に再会したかのように「たべるとくらしの研究所」からジャムが届く。調味料は、ビンから出したそのままでももちろん十分に美味しいのだけれど、ほんの少し余白のようなものも残してくれているから、料理をつくる人、味わう人の好みで食材や他の調味料との組み合わせも自由に楽しむことができるのだ。
日々、積み重ねられていく、たべることとくらすこと。ちょっと立ち止まって見渡せば、ささやかな幸せが足元を照らしてくれていることに気づく。あたり前のようでそうでないこと。びんの底に残ったジャムを、スプーンでしつこくすくい取るように、毎日を味わい尽くさなければと彼らを見ているとそう思う。
日々の暮らしの中で、月日をともに積み重ねたくなるような器や生活雑貨が並ぶ店。日常着や、おいしいもののセレクトも人気。「今日のひとしな」のコラム執筆は、店主の長谷川ちえさん。
福島県田村郡三春町9
TEL:0247-61-6650
10:00~17:00 水曜・木曜定休
http://in-kyo.net
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