二宮の雑貨店「日用美」の浅川あやさんによる11月の「今日のひとしな」をお楽しみに
日に日に、朝晩が冷えるようになってきましたね。さて今日は、明日から1か月間「今日のひとしな」連載を担当してくれるお店をご紹介します。神奈川・二宮のショップ「日用美」です。
二宮があるのは、茅ケ崎と小田原の間あたり。東京から1時間ほど電車に揺られると見えてくる、海沿いののんびりした小さな町です。2年前からここに暮らし始めた店主の浅川あやさん。それまでは鎌倉で10年ほど店を営んできましたが、二宮で素敵な建物に巡り合ったことで店の移転を決め、家族で移り住みました。
小高い丘の上に建つ、この洋館が「日用美」。もともと別荘として使われていたという築80年ほどのこの建物、浅川さんが見つけたときは、長い間空き家だったため荒れ放題でした。でも、この味わい深い空間や美しいパーツたちを生かして店を作りたいという思いがムクムクと膨らみ、困難は承知でリノベーションすることを決めたのだそう。
味わいのある窓枠やドアは、ほぼ当時のまま。真鍮の取っ手をまわし、店に入ると……
中にはこんな素敵な空間が。様々な難題を乗り越えながら約2年かけて改装され生まれ変わった店内は、蔵の中のようなしっとりとした空気で満たされつつも、とてもあたたかな雰囲気に包まれていました。浅川さんによって丁寧にセレクトされた日用品が心地よさそうに並んでいます。
奥の壁に取り付けられたステンドグラスは、店のシンボル的な存在。「最初からここにあって、改装時もまったく手を加えていないんですよ。美しいですよね。この時代のものとしては珍しい、華やかすぎないシンプルなデザインが気に入っています」
その隣の窓からは、浅川さん家族が暮らす家が見えます。
「鎌倉ではお店と住まいが1階と上階で分かれていて、よくも悪くも仕事と暮らしを切り分けられていたのですが、ここでは、ほとんど境目がありません。店から息子が遊ぶ姿も見えますし、お客様に私たちの暮らし方をそのまま感じていただけるのもいいなと思うんです。私自身、暮らしの一部に店があるという感じで、より肩の力が抜けて、気持ちよくお店と向き合えている気がします」
こちらのランプシェードは木工作家の中矢嘉貴さん、木皿は河内伯秋さんによるもの。
「隣の住まいは、店の改装と並行して建てたのですが、その過程で大きなカツラの木を泣く泣く伐採することになったんです。どうにかこれを生かせないかと木工作家さんたちにお願いして、商品として蘇らせていただきました」
店に並ぶアイテムのひとつひとつにストーリーがあるのも、「日用美」の特徴のひとつです。
さきほどの大きな窓から見えるクスノキの枝で作られた、オリジナルのボールペンやシャーペン。木の手触りがなんとも心地よく、贈り物にもよさそうですね。
以前、家具デザインの仕事をしていたこともある浅川さん。「ダイニングテーブルにもたくさん引き出しがついていたら便利だな、丸い座面の椅子は座りやすいのにあまり見ないな……」と考えを巡らせているうちに、とうとうオリジナルの家具を作ってしまいました。こちらのサンプルはオークで作られていますが、木材やサイズはオーダー可能だそうですよ。とっても座り心地がいいので、お店を訪れた際はぜひ試してみてくださいね。
こちらの革小物も「日曜美」ならではのアイテム。地元・二宮で制作を続けている「Takuyama&co.」佐藤拓さんによるもので、このザラッとした質感が、使い込むうちにしっとりつややかになってきます。
また、店内には新品以外のアイテムが置かれていることも。たとえばこちら、秋田杉で作られた「栗久」の曲げわっぱ。左は新品で、右のあめ色になったほうは浅川さんが20年以上使い続けているもの。こんなにツヤが出るんですね~。長く愛用できて、使えば使うほど味わいや美しさが増すものを扱う「日用美」だからこそのディスプレイ。こういう見本があると、自分の暮らしに取り入れたときのイメージがしやすく、お買い物がしやすいですね。
そんな浅川さんのセレクトですが、実は最近少しずつ変化してきています。
「『日用美』という店名にしたこともあり、以前は店に置くものは“普段使うための日用品”ということにこだわっていました。でもこのコロナ禍を経て、日常に必要なものって“使う道具”だけじゃないなって思ったんです。気持ちを安らかにしてくれるもの、あたためてくれるもの……そういったものこそ暮らしに欠かせないということに、この2年で気づかされました」
そのため最近は、店内で出張花屋さんをしてもらったり、オブジェやアートを並べたり。少しずつ「日用美」の形が変わってきているようです。ただ、今のところオンラインストアを開く予定はないのだそう。
「手仕事のアイテムが多いので、同じ種類の商品でもひとつひとつ形も色合いも、そして私の思い入れも(笑)違うんです。だから、それぞれの説明を書いていたら膨大な量になってしまいそうで……。微妙な違いを文章と写真で伝えるのは難しいので、今のところは、お店で実際に手に取って選んでいただくスタイルを続けようと思っています」
とはいえ、電話やメールで問い合わせをしたあと、商品を送ってもらうことはできるので、インスタグラムなどチェックしてみてくださいね。
ちなみにこちらは、お店に行くまでの道。入り口からこの急な坂をのぼります。「けっこうキツいでしょう?(笑)でも、のぼった先は、風がすーっと通り抜けて、いつも鳥の声が聞こえている、とても気持ちのいい場所になっているので、ぜひいらしていただきたいです」
「ここに引っ越してきてからは“本来は当たり前”のことに驚かされることばかり。庭で刈り取った草は、ごみとして回収してもらわなくても自然に土に還るし、春にはタケノコが毎日にょきにょき。お客様たちにも掘りおこして持ち帰ってもらったのですが、たぶん100本以上はあったんじゃないかなあ。採りたてのタケノコって、アクとりしなくてもすごくおいしいんですよ」とうれしそうに話す浅川さん。このやさしい笑顔に会いに訪れる常連さんも、日に日に増えています。
取材後、二宮の町を案内していただいたのですが、道ゆく人や、小学校帰りの息子さんのクラスメイトなど、本当に多くの人に気軽に声をかけられ、和やかに挨拶を交わしていた浅川さん。すっかり二宮の町に溶け込んでいました。そんな浅川さんから毎日届く「日用美」の「今日のひとしな」連載、どうぞお楽しみに~。
神奈川県中郡二宮町二宮1022-2
TEL:0463-74-6603
営業時間:11~17:00
営業日:日、月、火曜
https://nichiyobi365.wixsite.com/nichiyobi
Instagram「@nichiyobi_asakawa」
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