どんな料理も受け止めてくれる、シンプルさと美しさ 清水善行さんの器
~「HJ GALLERY」より vol.20 ~
清水善行さんの器は、料理との相性がとてもいい。手にした器を眺めていると、盛りたい料理が次々と浮かびます。だし巻きだけでも、天ぷらを揚げただけでも、煮物を炊いただけでも、野菜を軽く茹でて塩とオリーブオイルをかけただけでもいい。清水さんの器に盛れば、途端に料理に奥行きが出て、端正な佇まいへと変貌してくれます。
清水さんのご自宅と工房は、京都南山城村にある、標高400~500メートルの高原の「童仙房(どうせんぼう)」を拠点にされています。いつも車で伺うのですが、山道を車で登って、登って、抜けた先に広がる、おとぎ話に迷い込んだような美しい場所、「童仙房」。透き通った空気に豊かな緑が気持ちよく、茶畑が広がり、その風景は私の原風景なのか、いつも泣きそうになるほど、私にとって特別な場所で、幾度となく訪れています。
はじめて清水さんの器に出会ったのは、「童仙房」にある、清水さんご夫婦が運営されるギャラリー「ARABON」にて。ずらっと並んだ器を見てあんなに心躍ったのは久しぶりだったと感じるほど、あの時、話もほどほどに、ただただ器と対峙したことを昨日のことのように覚えています。一つ一つ、どれ一つとして同じもののない器たち。持ってみて眺め、裏も見て、横も見て、遠くからも見て……と、器と対峙する時間は楽しいものです。
長石釉皿 ¥6,600
白磁大鉢 ¥44,000
白磁水滴 ¥16,500
石磁硯 ¥22,000
物心ついた時から絵を描くことが好きだった私は、広告の裏紙をノートにしてもらって、ひたすら描いて描いての毎日を過ごしていました。高校から芸術系の高校に行きたいと願うも、気持ちが変わるかもしれないと父に言われて、普通科の高校に進んでからも、学校が終わればアトリエに通ってはデッサンばかり描く日々を送っていました。立体も手掛けるようになり、いつしか陶芸の道に進みたいと思っていたのですが、食べていくのが大変だからと、父と同じ建築の大学に進むことになり、今へと続きます。
清水さんの器に出会った時、陶芸が好きだった自分ともう一度出会ったような不思議な感覚になりました。落ち着いた色でありながらも表情豊かな質感に素朴さと力強さが宿り、その安定感のある佇まいに安心感を覚えます。
特に好きなのは、少し青みがある深い灰色の須恵器。朝鮮半島を通じて古墳時代から平安時代にかけて日本で作られていた陶質土器で、窯を使って1,000度以上の高い温度で焼かれる硬質の焼物です。使えば使うほどに滑らかになり、やわらかく艶が出てきます。そうして育つ器は年月をかけて味わいが増してきます。
一つ一つ丁寧に作陶し、ご自身で作られた穴窯で焼成して作られる器たち。少し前に登窯もご自身で作られて、その初窯とそこで焼かれた器たちとも出会ってきました。いつも目を惹かれる、何かと出会う、清水さんの器。今回は初窯で焼かれた梅瓶が特に美しい。肩にかかる灰の表情も美しく見た瞬間に心奪われました。
いつもおいしい料理を振る舞ってくださる、お料理上手の清水さん。お料理と共に並ぶ清水さんの器たちは、これが豊かさだと感じさせてくれます。
この日もチキン南蛮や胡瓜とサバの和物、トマトとサツマイモのお味噌汁に夏野菜の焼き浸し、お重にはお漬物たちが並びました。心と身体に染み渡って感じる幸福感。
童仙房在来ほうじ茶 ¥1,100
そして、最後には清水さんが今年仕込んだという中国茶。何も知らないで茶葉の香りを嗅いだ時は、「どこのおいしい茶葉だろう?」と思ったほど香り高く、飲めば満ち足りる美味しさでした。透き通ったような味わいはいくらでも飲めてしまう。こんなに美味しく作れるのかと驚いてしまいました。実は、今では数が少なくなった在来種の茶葉に魅せられて、ほうじ茶の焙煎もなさっています。これも、抜群においしいのです。普通に淹れても水出しでも。我が家に欠かせない茶葉です。どれもこれも、生き方も含めて清水さんの魅力に溢れています。清水さんのどんな器に出会えるかは、その時々ですが運命的な出会いをぜひ。
清水善行さんの器を各種取り扱っております。詳しくは「HJ GALLERY」までお問合せ下さい。
(写真:奥山晴日)
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住所:奈良県奈良市三碓2-4-13-2
TEL:0742-52-5000
営業時間:11:00~16:00
営業日:木曜・金曜・土曜
https://www.hj-g.jp/
instagram:@hjgallery
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