第10回 子どもの頃の毎日のおやつだった、夏のゆでたてとうもろこし
夏だ。私のいちばん好きな季節。
毎年の猛暑に、みんな早く秋がきてほしいと言うけれど、私はもっともっと夏を楽しみたい。秋がいちばん好きではない。なぜなら、夏からいちばん遠い季節だから。秋がくると、夏が遠いなぁと寂しくなってしまう。
大人になってから、とうもろこしが大好きになった。毎日1本食べられてしまう。子どもの頃は、ゆでたとうもろこしが毎日のおやつで、ザルに並んでテーブルの上にのっていた。地元の採れたてのとうもろこし。そして、いつでもゆでた枝豆があった。一度にたくさんゆでて食べきれなかったものは、袋に入れて冷蔵庫に入れてある。朝ごはんやおやつ、そして夜の小腹が減った時に、ぱくぱく食べてしまう。冷たい枝豆も、とてもおいしい。
最近、実家から野菜をたくさん送ってもらった。トマト、きゅうり、オクラにみょうが、なすにモロヘイヤ、枝豆、桃、そして、とうもろこし。
私はとうもろこしはゆでる派で、皮を少し残して塩ゆでする。数枚皮をむいて、実の詰まり具合をのぞく。実がぷっくり詰まっていて、とてもおいしそう。ゆで上がりが楽しみだ。塩ゆでして、粗熱がとれたら皮をむいて、半分に折ってからかぶりつく。夏にしか味わえない、とうもろこしのこのみずみずしい甘さ。これを食べるたびに、夏って最高…と感動する。
毎シーズン、最初にとうもろこしをかじる時に、必ずといっていいほど思い出すことがある。それは、とうもろこしの食べ方について。とうもろこしの食べ方には、3パターンあると思っている。
①豪快に粒なんて気にせずに、とにかくかぶりつく。
②ひと粒ずつきれいに歯でかじっていく。
③手で粒にしてから口へ運ぶ。
私は②。歯をうまく使って、ひと粒ずつきれいに食べ始めていく。食べ終わった時に。なるべく芯がきれいに残るように。でも、これは建前の食べ方。誰か人がいる時の食べ方。理性を抑えた食べ方。本当は①みたいに豪快に、食べ終わった時の芯のきれいさなんて気にせずに、とうもろこしにかぶりつきたい。粒を気にしない食べ方は、ひとかじり目から甘さが全面に主張してくる。
昔、気になる人と仕事終わりにごはんを食べに行ったことがある。何かの話をしていて、その人に写真を見せようとスマホを見せた時、私のスマホの画面が少し汚れていた。そういえば、仕事の休憩中にお客さんからいただいたとうもろこしを食べた時に、そのとうもろこしがおいしくて、私はつい豪快かじりをしてしまったんだった…。そう、スマホの汚れはとうもろこしを豪快にかじったせいで、とうもろこしの汁がスマホに飛んでしまっていた。
画面を既に見せてしまっていた私は、やってしまった…!と思いつつ、スマホをおしぼりで拭きながら、「とうもろこしを豪快にかじるのが好きなんですよね…(えへへ)」という風に、ちょっと恥ずかしがりながら食べ方の話をしてみたけれど、時すでに遅し、その人はちょっと引いたような顔で、「僕はひと粒ずつきれいに食べます」と言われてしまった。
この話を後日友達にしたら、「それ、とうもろこしの食べ方というよりも、単にスマホをすぐ拭けばよかった話じゃない?」と言われ、確かに!と納得してしまった。とうもろこしに罪はない。私のズボラが出ていただけの話だった。
それ以来、毎年最初にとうもろこしをかじる時に、ふとその時のことを思い出してしまう。
今も人前では芯がきれいに残るように食べて、家でひとりの時は豪快にかじってしまう。そしてとうもろこしを食べている人がいると、どんな食べ方をするのかチラチラ見てしまう。豪快かじりをしている人を見ると、少し安心する。
これを書いている今も、テーブルにはさっき食べ終わったとうもろこしの芯がある。半分きれいに食べ、半分豪快かじりをしている。まだまだ私はとうもろこしの食べ方が定まっていない。定める必要はどこにもないのだけれど、毎年食べ方について考えてしまう。
あと何回この甘さを味わえるのか、お盆が過ぎて夏も終わりに近づいて、夏のおいしさを噛みしめている今日この頃です。
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Profile
夏井景子
1983年新潟生まれ。板前の父、料理好きの母の影響で、幼い頃からお菓子作りに興味を持つ。製菓専門学校を卒業後、ベーカリー、カフェで働き、原宿にあった『Annon cook』でバターや卵を使わない料理とお菓子作りをこなす。2014年から東京・二子玉川の自宅で、季節の野菜を使った少人数制の家庭料理の料理教室を主宰。著書に『“メモみたいなレシピ”で作る家庭料理のレシピ帖』、『あえ麺100』『ホーローバットで作るバターを使わないお菓子』(ともに共著/すべて主婦と生活社)など。
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