第9回 友だちとのおやつにお母さんが持たせてくれた、ホカホカのぶりのかま焼き

夏井景子さんの想い出の味
2021.07.21

あれは、たしか小学3年生の時。
給食を食べたらすぐに下校する日で、友だち数人と、公園に集まって遊ぼうと約束して家に帰った。

家に着くとその日は家業が忙しそうで、みんなせわしなく働いていた。お母さんにこれから誰々ちゃんたちと公園で遊ぶというと、「これおやつに持っていきな〜」と言ってアルミホイルの包みを渡してくれた。ホカホカのアルミホイルの包み。香ばしい香りがする。ここでびっくりなのだけれど、母が私に渡したおやつは、ぶりのかま焼きだった。


ぶりのかま焼きは私の大大大好物で、夕飯に「今日はぶりかまあるよ」と言われると、大喜びしていた。ぶりかまをほぐして、熱々のごはんにのせて食べる。あぁ幸せ。

でも…友だちと公園に遊びに行くのに、いつ、どのタイミングでぶりかまを食べればいいのか…。どうしようと戸惑ったものの、私はなぜか断れず、「ありがとう」と言ってカバンにアルミホイルとお箸を入れ、自転車に乗って公園へ向かった。

公園でみんなと遊んでいても、ちょっと気が重い。あのぶりかまをみんなの前で出すのは、子ども心になんだか恥ずかしかった。

ひとしきり遊んで、みんなでベンチに座っておやつを食べようとなった時に、もう逃げ出したかった。みんなのカバンから、パンやスナック菓子が出てきた時、私はどうしてもぶりかまを出せなかった。「おやつ忘れちゃった。。」とヘラヘラして、友だちからお菓子を分けてもらって、どうにかその場をやり過ごした。

家に帰って、すっかり冷めたアルミホイルをそのまま母に渡した。「あら、食べなかったの〜」と、少し残念そうな母の表情。食べなくてごめんという気持ちと、ぶりかまは出せないよ。。という私のふたつの複雑な気持ちは、どちらも言葉にできなかった。

思い返せば、母は割と突拍子もないことをする。私のぶりかまと似たようなことが、姉にもあったと大人になってから聞いた。

姉が中学生の頃。土曜日の午後に部活があり、その日はお弁当が必要だった。母は朝忙しかったらしく、お昼の時間にお弁当を届けるからと言われて、姉は家を出た。今と違って家から学校までの間にコンビニなどなく、お弁当を必ず持参しないといけない時代だった。

お昼の時間になると、母は姉のお昼ごはんを持ってきた。それは…今さっきオーブンから出しましたと言わんばかりの、熱々のグラタンをグラタン皿ごと。姉は呆然としたらしい。お弁当箱を想像して待っていたら、届いたものは熱々のグラタンだったから。


姉とお互いの話を聞いて笑ってしまった。どちらのエピソードも、突拍子もないことをする母そのものなのだけれど、子どもに好物を温かく、おいしく食べてほしいという気持ちからきているということが、大人になった今はとても分かる。

私も料理教室中に、料理が完成したら熱いものは熱々のうちに食べてもらいたくて、「熱々を食べましょう〜〜」と、よく生徒さんを急かしている気がする。

母の裏目に出てしまった優しさの思い出エピソード。でも忙しい中、私たちの好物のぶりかまやグラタンをよく焼いてくれていた。

久しぶりに母のごはんが食べたいなと、この1年よく思う。1年以上帰省しないなんて初めてで、今年の秋冬にはやっと帰れるのではないかと、今から期待している。その時は、久しぶりにぶりかまを焼いてもらおう。今からとても楽しみだ。


これは実家で食べた桃。甘くておいしかったな。


夏井景子さんの想い出の味⑧】はこちら

 

Profile

夏井景子

KEIKO NATSUI

1983年新潟生まれ。板前の父、料理好きの母の影響で、幼い頃からお菓子作りに興味を持つ。製菓専門学校を卒業後、ベーカリー、カフェで働き、原宿にあった『Annon cook』でバターや卵を使わない料理とお菓子作りをこなす。2014年から東京・二子玉川の自宅で、季節の野菜を使った少人数制の家庭料理の料理教室を主宰。著書に『“メモみたいなレシピ”で作る家庭料理のレシピ帖』、『あえ麺100』『ホーローバットで作るバターを使わないお菓子』(ともに共著/すべて主婦と生活社)など。 
http://natsuikeiko.com   Instagram:natsuikeiko

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