文筆家・山崎まどかさん【前編】「この雑誌の物語の主人公になりたい。初めてオリーブを読んだときそう思った」
そばかすがチャームポイントになることも、かごのかわいさも、公園で食べるサンドイッチのおいしさも。大事なことはみんなオリーブに教わった。80年代、90年代、少女たちに熱狂的に支持された雑誌『オリーブ』。その熱狂をつくり出していた、素敵な先輩を訪ねます。
text:鈴木麻子 photo:岡利恵子
かつて、私たちは「オリーブ少女」でした。レースやフリルが大好きで、誰かにちょっとだけ注目されたくて、好きなものに一直線で、不器用で、傷つきやすくて……。あれから10年、20年経ち、毎日を忙しく生きる中で、そんな繊細な感覚や記憶はすっかり遠くに。それでもふとした瞬間、当時に引き戻され、ギューッと胸が締め付けられてしまうことがあります。山崎まどかさんの著書『オリーブ少女ライフ』を読んだ時もそうでした。
↑ 黒縁眼鏡に真っ赤なルージュがトレードマークの山崎まどかさん。背筋をのばし、本を読む姿はさすがにかっこいい。
『オリーブ少女ライフ』(河出書房新社)は、文筆家の山崎まどかさんが、“オリーブ少女”だった頃のことを綴ったエッセイと、2000年代初頭に雑誌『オリーブ』誌上で連載していたコラム「東京プリンセス」の二部構成。
――この雑誌の物語の主人公になりたい。
13歳の時、初めて『オリーブ』を読んで、そんな風に思った――
こんな一文で始まるエッセイは、私たちをタイムマシーンに乗せてティーンの頃にガバッと引き戻してくれます。「Scoop」「VIVA YOU」「文化屋雑貨店」、そして「アニエスb.」のスナップカーディガン……etc。丹念に並べられる固有名詞のいちいちが懐かしく、何より登場する少女(山崎さん)のちょっと早熟でナイーブで、おしゃまな言動の描写に、自分の(今思えば)たどたどしい少女時代を重ね、甘酸っぱい気持ちになってしまうのです。
「10代の頃の、みんなが恥ずかしくて隠してしまうような部分を、『オリーブ』というフィルターを通して、隠さず書こうと思いました。かっこつけず、かといって若いときの自分がいかにみっともなかったかみたいな自虐的なふうにもならずに……。だって当時は一生懸命だったんだから。だから、なるべく正直に、フラットな視点で書くようにしたんです。それは、当時の自分とある程度の距離感がある、今だからこそですよね」
山崎さんと『オリーブ』との出合いは、中学1年生の終わりくらいから。1984年くらいのこと、と振り返ります。
「もうほとんど絵本みたいな、外国の絵本を見ているみたいな世界でびっくりしました。こんなのがあったんだ、って。自由で、上品で、洒落ていて。時々、実際の中学生や高校生も登場していたので、適度にリアリティもありましたね。リアルな登場人物が、外国の絵本みたいな世界と現実世界との懸け橋みたいに感じられたんです」
↑ 『オリーブ』の連載をまとめ、エッセイを加筆した『オリーブ少女ライフ』(左)と、少女カルチャーについてまとめたリトルプレス『ロマンティック・オ・ゴーゴー』(右)。どちらも、様々な固有名詞が散りばめられ、そのすべてに懐かしい気持ちが刺激される。
私服の私立学校に通っていたこともあり、中学生の半ばから山崎さんはおしゃれにのめり込んでいきました。「15~16歳の頃は、お洋服が脳の半分くらいを占めていたんじゃないかっていうくらい好きでしたね」。その道へといざなってくれたのは間違いなく『オリーブ』。毎号繰り出される自由で楽しくて、誰にも媚びないファッションに、山崎さんは夢中になりました。
「私は『オリーブ』でおしゃれのお勉強を必死でしていたんですね。それまでは全然だったから、おしゃれすることに飢えていたのかなあ? いえ、飢えていることにさえ気がついていなかなかったかも。『ヴォーグ』の伝説的な編集者ダイアナ・ヴリーランドが編集長になったとき、『私たちは読者が欲しいと思っているものを提供するんですよ』っと言ったスタッフに対して、彼女は『そうじゃなくて、読者が欲しいと夢にも思っていなかったものを見せてあげるのが私たちの役目だ』と言ったのだそうです。私も、『オリーブ』を見るまではこういうものが自分は欲しいとか、好きだなんて夢にも思わなかったものが、ここにあるっていう風に思っていました」
↑ 山崎さんが「オリーブっぽい」と紹介してくれたストロベリー・スイッチブレイドのレコード。「ゴスっぽいメイクに、水玉、リボン、お花……。パンクの中にもかわいさがあって、まさにオリーブです」
インターネットの画面を通して、どんな場所にも飛べ、世界中の「かわいい」を覗ける今。私たちの心を激しく揺さぶる景色にもスタイルにも出合えることは、そう多くないかもしれません。でも、その当時の『オリーブ』には確実にありました。『オリーブ少女スタイル』のあとがきに、山崎さんはこう綴ります
――どんな世代に属していても、私たちにはそれぞれに憧れが火をつけた若い日の思い出があり、それを大事なお守りのように今もどこかに持っている。――
どんな世代にもあると書いてあるけれど、その「お守り」が『オリーブ』だった私たちの世代は、やっぱりラッキーだったと思うのです。
Profile
山崎まどか
東京生まれ。文筆家。本や映画、音楽などを中心とした“女子カルチャー”に通じ、雑誌、書籍、イベントなどさまざまなメディアで発信し続けている。著書に『「自分」整理術 好きなものを100に絞ってみる』(講談社)、『オリーブ少女ライフ』(河出書房新社)などがある。発売されたばかりの新刊は初の翻訳『ありがちな女じゃない』レナ・ダナム著(河出書房新社)。
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