淡路島編vol.3 扉や窓からの刻々とうつろう風景が美しい「喫茶 刻々」・料理と空間が響き合う「食のわ」

地元のおしゃれさんが 案内する 小さな旅
2025.09.20

瀬戸内海最大の島である淡路島は東京都23区ほどの大きさで、温暖な気候で四季折々の花や景色などの自然が楽しめます。本州からは明石海峡大橋、四国からは大鳴門橋が繋がっており離島ながらアクセスも良く訪れやすいのも魅力のひとつです。
そんな淡路島を拠点に活動されている設計事務所「HIRAMATSUGUMI(ヒラマツグミ)」さん。設計事務所の他にカフェやギャラリーも併設されており県外からも多くの人々が訪れます。素敵な建築物にも注目して欲しいという島のスポットをご紹介いただきました。是非次の旅の計画を立ててみてくださいね。
 




お菓子をせっせと焼き 一息ついたあと
灯りをともし 扉を開ける
私の仕事はとってもシンプルです
そうして開いた場所に
喫茶時間が必要なかたがこられて「ふぅ」と前向きなため息をつき
また扉を開けさっていく

喫茶時間を愛する店主のこの言葉の中に、「喫茶 刻々(こっこく)」のぜんぶが表されているのではないかと思うのです。
シンプルに聞こえるその営みを変わらずに続けるために、無理をしない、頑張りすぎない、日々営むこと、を大切にされています。



淡路島の中央部、「淡路島のおへそ」と呼ばれるエリアの、田んぼが広がる小高い丘の上に「喫茶 刻々」はあります。
店内には、店主が集めたアンティークの扉の数々や大小さまざまな窓があり、そのどれも違う扉や窓から、刻々とうつろう風景を見ることができます。時にドラマチックな日が店内に差し込むこともあれば、コツコツと小鳥がガラスをノックして遊びに来ることもあります。



設計を手がけた設計士に好きな場所を訊ねると、「キッチンから外を臨む大きな窓」と答えてくれました。東向きのその窓からは、朝日がふんだんに降り注ぎ、店主が一日の大半を過ごす場所を最良の場所に仕立てています。さらに、一番長くこの場所で過ごす店主は、幾つもの美しい情景を見つけては、朝の美しい光を共有すべく早朝から扉を開け、庭の白木蓮が満開になれば、その喜びを分かち合うために臨時で扉を開けます。
ここで過ごす雨の日もまた特別です。雨の情景が美しいことを店主はもちろん、常連さんや友人知人もよく知っているようで、雨の日は一層忙しくなるのだとか。



この日私がオーダーしたのは、スコーンとコーヒーフロート。
私が今まで食べた中で一番美味しいと思っている刻々のスコーンとの初めての出会いは、持ち帰った自宅で。「155度オーブンで7分リベイク」と書かれた紙が添えられていて、その通りにして食べた時の衝撃は今も忘れられません。細かく刻んだその数字には、店主のこだわりと心配りが凝縮されています。



そしてその丁寧さは、喫茶空間全体に宿っています。こられた方が、どんな状態のときも受け止めて、自分を肯定できる時間を過ごせるように。そんな願いが、この場所の隅々に息づいています。
「喫茶 刻々」の店内に置かれたものには、そのひとつひとつに長い物語があります。店主がひとりではなく、そこにこられる方と共に物語を一緒に紡いで作り上げたものばかりがここそこに散りばめられています。
おばあちゃんになっても喫茶店をしていたいと話す店主は、この先も丘の上で、お菓子を焼き、一息ついて灯りをともし、そして扉を開けていることでしょう。


少し足を伸ばして、この夜「喫茶 刻々」店主と訪れたのは、同じ地域にある完全予約制のお店「食のわ」。知る人ぞ知る存在ながら、料理も空間も素晴らしく、記憶に残る特別な体験となるお店です。



予約を受けてのみオープンするスタイルは、料理人として25年以上キッチンに立ち続けてきた店主が、一人ひとりに寄り添った料理をつくりたいとの思いから。料理をする上での大切にしていることを問うと、言葉少なに「そっと」とだけ答えてくれました。その言葉は、一つひとつ先を細く削った箸や、下拵えから素材選びに至るまで、すべてに通底しています。丁寧な手間と心配りは、主張せずとも、食べた人に美味しい記憶として残ります。



空間もまたユニークです。元牛舎だった建物を友人でもある「eisou」の谷本さんと歩一歩、一年以上かけて改修し、そこにあったものや古い材料を生かし、現場で合わせながら少しずつ改修した空間には、細部までこだわりが詰まっています。銅管で製作した水道管や電気の管は、あえて綺麗にしすぎず、空間に静かなアクセントを添えています。空間にも現れる素材選びや取り合わせの妙は、新しいものは古きに寄り添い、ただ「そっと」在ることでいっそう美しく調和しています。
この場所で味わうひと皿は、料理と空間が響き合い、やさしい余韻を心に残します。


 

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「喫茶 刻々(こっこく)」
兵庫県洲本市五色町鮎原南谷409
営業時間:12:00〜18:30 (L.O 18:00)
定休日::不定休
instagram:@kokkoku_

 

「食のわ」
住所非公開
完全予約制
Instagram :@syokunowa_awaji
  
MAP:C

日本、〒656-0002 兵庫県洲本市中川原町中川原555

日本、〒656-2334 兵庫県淡路市釜口2173

日本、〒656-1325 兵庫県洲本市五色町鮎原南谷409

日本、〒656-1521 兵庫県淡路市多賀2150

日本、〒656-1557 兵庫県淡路市明神

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