暮らしの中で育っていく、北山栄太さんの木の器

今日のひとしな
2025.12.07

〜「tömpa(東巴 / とんぱ)」より vol.7〜


一度は飾って眺めたくなる佇まい。けれど、気づけば自然に手に取っている。北山栄太さんの器は、そんな不思議な魅力を持っています。
古いフランスの器に惹かれながらも、日々の暮らしに寄り添う使い心地を追求し、何度も試作を重ねてきたという北山さん。“木”という素材がもつ温もりや時間を、そのまま生活の中に招き入れるような、優しくも凛とした存在感があります。
現在は宮城を拠点に、海と山のあいだにある工房で制作されています。工房から海までは車でおよそ20分。朝4時前に起きてサーフィンをしてから一日が始まるのだそう。波の音とともに迎える朝の空気が、そのまま作品の静けさにつながっているように感じます。


写真に写るのは、北山さんが9年前から愛用している柘榴(ざくろ)染の木の器。
草木で染めた柔らかな色みが、年月を重ねるうちに深く沈み、今ではまるで古いアンティークのような風合いをまとっています。柘榴の皮で染められた木肌は、時間とともに少しずつ色を変え、光や手の油分によって、艶を帯びていきます。
その上から施されたガラスコーティングが、木の呼吸を妨げることなく表面を守り、水や油を気にせず、日々の食卓で気軽に使えるよう工夫されています。


一見、静かな佇まいの器。けれど、よく見るとその中には、長く寄り添ってきた時間の記憶が滲んでいます。擦れた箇所、ほんの小さな色の濃淡、指が触れる場所の艶。それらすべてが、使う人の暮らしを写すようです。木の器は“完成品”ではなく、“始まり”なのかもしれません。使うほどに光沢を増し、角が丸みを帯び、自分だけの表情へと育っていく。そんな時間をともに過ごせるうつわです。
北山さんの器には、「時間とともに美しくなる」ことへの確かな信頼と、“暮らしの中で生きる工芸”の姿が静かに息づいています。


木=素材、風=土地(海)、そして育つ=時間と暮らし。
この三つの要素が静かに交わるところに、北山栄太さんの器があります。
木の香りをまといながらも、海のそばの風景や暮らしの気配をどこかに宿した器。手に取るたびに新しい表情を見せ、時とともに艶を増していくその姿は、まるで暮らしの相棒のようです。


北山さんの木のカトラリーは、アンティークを思わせる端正なフォルムと、使うほどに艶を増す木肌の美しさが魅力です。


先日、北山さんのご家族と一緒にBBQを楽しむ機会がありました。
笑い声が夕暮れの光に溶けていく時間。そこに並んでいたのは、北山さんの手による器たち。使い込むほどに深みを増し、食卓の風景をやさしく包み込む姿が印象的でした。器は、日々の暮らしとともに育っていくもの。北山さんの作品には、自然と人、手仕事と時間が寄り添い合う静かな物語が宿っています。
手に取るたびに、海辺の朝の空気や、家族の笑顔、火の温もりのような記憶がふと蘇る、そんな今日のひとしなです。


北山栄太(kitayama eita)
兵庫県・丹波篠山に生まれる。
服飾、鉄工、建築や内装といった多様な仕事を経て、2016年より木と向き合う制作活動を始める。2019年から宮城に拠点を移す。
素材がもつ気配や時間を大切にしながら、器や道具を中心に制作。草木染めによる柔らかな色合いと、ガラスコーティングによる凛とした表情を融合させ、木に新しい質感を与えている。
形は極力シンプルに。無駄を削ぎ落としたフォルムの中に、日常に溶け込みながらも静かに存在感を放つ美を追求している。



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tömpa(東巴 / とんぱ)

静岡県湖西市新居町新居2731
TEL:053-594-8633
営業時間:11:00〜17:00
定休日:日・月
(※展示会期間中は日・月も営業 / 最新情報はSNSを確認)
Instagram:@tompa_japan
(※営業日や展示会・料理教室などWSについては随時Instagramでお知らせ)

Online Store:
https://www.83com.com/
https://tompa-antiques.stores.jp/
https://www.rakuten.co.jp/tompa/

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