小さな苗がくれた大きなエネルギー
〜「tömpa(東巴 / とんぱ)」より vol.31〜
25年前、旧東巴の東側にあった木製パーゴラの片隅に、小さなノウゼンカズラの苗を植えた。手のひらほどの小さな苗でしたが、のちに私に想像以上のエネルギーを与えてくれる存在になるとは、そのときは思いもしませんでした。

当初は、庭にワイルドな花を添えたいという気持ちだけで、ノウゼンカズラの苗を選びました。生命力は驚くほど強く、枝や蔦は自由に伸び、あっという間に周囲の木や建物に絡みつきました。お手入れは決して簡単ではなく、雨風の強い日や台風のたびに「パーゴラはそろそろ限界かも」と心配しながら眺めていたのに、いつの間にか太い幹となったノウゼンカズラは、朽ちかけたデッキの柱を堂々と支えるまでに成長し、庭の一部として頼もしい存在になっていました。
実はノウゼンカズラは「庭に植えてはいけない植物」とも言われるほど、自由奔放で逞しく、つるはどこへでも伸びてしまいます。でも、その大胆さと力強さこそが、この庭に命のエネルギーを与えてくれていたのだと感じます。

春から夏にかけて咲く鮮やかなオレンジ色の花は、朝に目にすると「今日も頑張ろう!」という気持ちを、帰宅の際には「支えてくれてありがとう」という感謝の気持ちを自然と抱かせてくれる存在でした。その花が屋根いっぱいに広がり、庭全体を埋め尽くす景色からは、言葉にできないほどの力とエネルギーをもらいました。
破壊と再生、喪失と繁茂を同時に教えてくれるこのノウゼンカズラは、私にとって心の支えでもありました。

植物が持つ生命力は、ときに言葉以上に人の背中を押してくれます。どれだけ雨に打たれても、どれだけ風に揺られても、小さな蔦は毎年必ず伸び、必ずまた花を咲かせる。その当たり前のようでいて奇跡のような営みに、私は励まされています。
息子にも、この植物の力強さや、諦めずに生きる姿勢を感じてほしいと思い、登れる木があれば率先して自ら登る姿を見せています。自然と向き合い、命の営みを身近に感じる体験を通して、たとえ小さな力でも、毎日の積み重ねが大きな支えになることを伝えたいと思っています。実際には良くも悪くも私の無鉄砲さが、一番の見本になっているのかもしれません(笑)。

現在は新しい店舗が完成し、旧店舗の庭は新しく生まれ変わろうとしています。
あのノウゼンカズラが教えてくれた「生きる力」を胸に、たとえ古いものが朽ちても、そのそばには必ず新しい芽が生まれ、そこからまた何かが始まる。あの蔦を通して、自然の当たり前の摂理を改めて感じるのです。(下記画像は庭の新芽です)

庭仕事をするたびに、以前そこにあった庭の植物たちを思い出します。春の新緑や夏の鮮やかな花だけでなく、冬の枯れ枝の風景も、力強くそこに存在していました。その姿に励まされながら、店づくりも人生も、植物と同じリズムで歩んでいける。そんな前向きな気持ちが自然と湧いてきて、あの小さな苗がくれたエネルギーは、今もなお、私の背中を押し続けてくれています。

旧東巴で使われてきた板や梁も、新築店舗ではその一部を生かして再利用しています。誰かに任せるのではなく、自分の手で施工し、過去の生命の痕跡や時間の積み重なりを引き継ぎながら、新しい空間を作り上げる。
もともと私は旧店舗を解体したくはありませんでした。道路より1メートルほど低く、冠水することがあったので、致し方なく解体することになったのです。嵩上げの作業も考えましたが、ここでもまた(笑)ノウゼンカズラはあらゆる場所に蔦を伸ばし巻きついていて、簡単にはいかないと言われました。解体の際、その姿を目の当たりにしたときの名残惜しさは、今もずっと心に残っています。

しかし、破壊の先には必ず再生が待っていることを、この経験から改めて感じました。朽ちた古いものが消えていく一方で、新しい建物の基礎や壁、そして再利用された梁や板の上には、新たな時間と命が積み重なっています。ノウゼンカズラが教えてくれたように、失われるものがあっても、そのそばには必ず新しい芽があり、そこから再び何かが始まると信じて。

破壊の作業が続く中で、思いがけない小さな「再会」もありました。塞いだ壁の間から出てきたのは、かつて愛車のピックアップトラックで取材を受けた頃のもので、その存在すらすっかり忘れていた一枚です。埃をまといながらも、どこか凛としたまま時間を越えて現れたその紙を手にした瞬間、壊すという行為の中にも、失われたと思っていた記憶がそっと戻ってくるのだと…。

今日でこのWebコラムの連載は最終回となります。1ヶ月間、読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。ひとつひとつ文章を綴る時間も、私にとっての積み重ねであり、このコラム自体が、これまで歩んできた日々や成長の記録のように感じています。
大晦日の今日、この一年、支えてくださったすべてに感謝しながら、皆さまもそれぞれの中にある「育てるリズム」をそっと感じつつ、新しい年を迎えられますように。来年も、日々の小さな喜びや新しい挑戦を大切にしながら、少しずつ手を加え、育み、積み重ねていけたらと思います。
皆さまにとって、あたたかく前向きな一年となりますように。良いお年をお迎えくださいませ。

■tömpa(東巴 / とんぱ) Instagram
■オンラインショップ
Asian antiques/暮らしの道具・作家
楽天市場
Europa antiques/フランス皿・古物など
静岡県湖西市新居町新居2731
TEL:053-594-8633
営業時間:11:00〜17:00
定休日:日・月
(※展示会期間中は日・月も営業 / 最新情報はSNSを確認)
Instagram:@tompa_japan
(※営業日や展示会・料理教室などWSについては随時Instagramでお知らせ)
Online Store:
https://www.83com.com/
https://tompa-antiques.stores.jp/
https://www.rakuten.co.jp/tompa/
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。






























