木目の景色 小沼智靖さんの漆芸
~ 「組む東京」 vol.21 ~
黙っているけれど、強い存在感。私は、この鉢に現れている表情を、ある種、原始的な力をもった縄文文様の渦のように感じます。これは、杉の寄木で作られており、渦のように見える文様は、本物の年輪なのです。
素材のもつエネルギーを生かす。小沼智靖さんにとって、それが、ものづくりの核になる大切なテーマだと、昨日のコラムでお伝えしました。今日、ご紹介するのは、木目を文様のように生かす漆芸の数々です。
これらは、100年、200年使い続けられることを念頭におき、伝統的な漆塗りの技術をベースに作られています。ただし、表面の表情の作り方には、独自のアイデアが盛り込まれ、彼の目指す「素材の持つエネルギーを生かす」ことが様々に実践されています。
例えば、普通、漆器は表面をなめらかに仕上げます。そのため漆や地粉を塗るときは、下地の段階から、ヘラを使って平滑に調整していきます。一方、小沼さんの器は、木目をどう見せるかが作品の一つの核になります。
木目が見えるので、薄塗りだと誤解されることがあるそうですが、実際はむしろ厚塗りです。漆を塗って研いでを繰り返す作業は、10工程以上。厚く塗っても木目が生きるよう、木目に沿って、油画用の固めの筆で漆を塗ることによって、むしろ木目を際立たせています。通常のようなヘラは使いません。
小沼さん曰く、「これを単純作業でやってしまうと、表面の表情が単調になってしまうんです。うまく言えないんですが、感性を働かせる工程なんですよ」。小沼さんが東京芸大で学んだのは油画。まさに絵を描くような感性が必要なのでは、と想像します。
絵画的なアプローチは、あらゆる工程に生かされています。例えば、漆を何層も重ねる際、その全てに様々に異なる顔料を混ぜます(顔料は人体に無害なものを使用しています)。その顔料の配合は完全にオリジナルで、何か手本があるわけではありません。表面の研ぎ加減によって、美しい文様と色が何層もかさなって浮かび上がるように、繊細に仕上げていきます。
他にも、表面に箔を施す。また、本来補強のための下地の布着せの布を模様のように見せる。場合によっては、下地から “うづくり”(表面をこすって年輪を浮かび上がらせる技法)をしたり、時には焼いたり。本体そのものの質感を調整することもあります。このように、手にした人が瞠目するような景色を浮かび上がらせるための工夫は、細微にわたるのです。
最後は、小沼さんの言葉を借りて締めくくりたいと思います。「見るほどに飽きず、静かな美しさを湛えている。空間にその一つがあると、部屋全体がその空気で包まれるようなものを作りたいと思っています」
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