堀井和子さん【後編】「売れ残ったとしても、我が家に取っておくのがうれしくなるようなもの作りを」
数年前にご主人とふたりで「1丁目ほりい事務所」という会社を立ち上げた堀井和子さん。
「肩書きについて、自分ではいまだに決められないんです。その時その時で変わるというか……。あえて言うなら、1丁目ほりい事務所の社員でしょうか(笑)」
事務所では、年に2~3回、企画展を行っています。それに合わせて、紙もの、布もの、器や雑貨など、オリジナルのプロダクトを製作。自分たちだけでデザインする場合もあれば、物によってはその道のスペシャリストと寄り添いながら、「ありそうでなかった」ものを丹念に作っています。
↑ 昨年秋の企画展の際、クラスカ“DO”のオリジナルテキスタイルから制作された「鳥と太陽とアーティチョーク柄」のエプロンスカート。しっかりした帆布に、堀井さんがフリーハンドで描いたイラストがプリントされています。
「質感とか色とかテーマに合わせて、あーでもないこうでもないって組み合わせて何かを作り上げていく作業は、本当に楽しいです。それに、いろんな人と組み合わさって一つのものを作るのはとても刺激的。紙、布、陶器などいろんなジャンルのもの作りにしっかり向き合って続けていると、今まで知らなかった『この物についてはこういう関わり方が気持ちいい』とか、そういうポイントが見えてくるようになるんですね」
昨年秋、目黒のクラスカで行われた『TREE+ こんなツリーがあったら こんな格子柄があったら』展では、木工作家・吉川和人さんが制作した栗の木のツリーに、ガラスや鉄や陶器でできた様々な形のオーナメントを吊るす、堀井さんらしい軽やかで端正なオリジナルのツリーを作りました。
↑ 栗の木のツリー。ツリーといえばクリスマスのイメージがあるけれど、こんなシンプルなツリーなら、一年中飾っていたくなります。たとえば新しい年を迎えるときは、白やガラスなど軽やかなオーナメントで統一。
「毎回どんなものを作るかと言えば、今自分が住んでいるマンションの暮らしの中で欲しいもの、楽しめるものなんです。主人がいいことを言ったんですけれど、たとえ企画展で売り切らなくても、我が家に取っておくのがうれしくなるようなものを作ろうって」
堀井さんの気持ちや鋭い感覚がたっぷり込められた「1丁目ほりい事務所」のもの作り。年に数回の企画展で、実際に見たり触れたりすることができます。
「ホームページも専用のオンラインショップもないんです。若いころに始めたプロジェクトならば、規模を大きくしようとあれこれやることもあったかもしれないけれど、いまは、夫婦ふたりでできる範囲のことをコツコツとやっています」
↑ 「1丁目ほりい事務所」の作品目録。年の終わりに、その年につくった作品を小さな本にまとめている「UN CAHIER DU PRODUIT」。これで4冊目に。
「歳の近いお友だちにも、若い友人にも、今できることしたいことを思いっきりやったほうがいいよって言うんです。たとえば、旅行。予算とか時間とかで迷っていたら、絶対に行くことをおすすめします。いまこの瞬間しか吸収できない、そんな時期かもしれないし」
そんな堀井さん、昔からモットーとしていることがあります。それは、「旅行と本にはお小遣いを節約しない」ということ。本も、1ページだけでも好きなページがあったら買うようにしているのだそうです。
「すぐに何かになるわけではないけれど、いつか必ず自分の栄養になる。そういうものに出合えただけでも幸せだし、そのページを見ていると次に何かしてみたくなることもたくさんあります。いまは、なんでもインターネットで見られるけれど、私はできれば自分のこの目で見てみたいといつも思っています」
美術館、古書店街、新しくできたおいしいお店……。今日も堀井さんは、“好き”を探しに街へと繰り出していきます。それがいつか、堀井さんのデザインのカケラとなり、表現のエッセンスとなるのです。
「脳味噌を元気にしておくと、体も調子がいいんです」
text:鈴木麻子
Profile
堀井和子
料理スタイリストを経て、渡米。その後、『オリーブ』で10年以上にわたり料理ページ「Eating」を連載。食に関するエッセイやレシピ本を多数発行。2010年にご主人とともに「1丁目ほりい事務所」を立ち上げ、自由な創作活動を行う。今秋行われる関西方面での企画展に向け、作家さんと新たなもの作りに挑戦中。
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。