あおぐ姿も納涼、団扇と扇子「伊場仙」
団扇と扇子が日用品となった江戸時代
団扇(うちわ)と扇子(せんす)を商う「伊場仙」は、毎年五月になると新作団扇が店内を彩ります。旧暦の五月といえば、江戸時代は夏の盛り。大川(=隅田川)の川開きは毎年五月二十八日にはじまり、終いの八月二十八日まで、毎日花火があがり橋のたもとの広小路には夜店や見世物小屋がたち、江戸市民がつめかけました。
日用づかいの団扇や扇子をはじめ、浮世絵団扇や飾り扇子などが数多く並ぶ「伊場仙」。
七月に団扇のお話なんて、季節遅れで野暮な私…。そんなお話しを「伊場仙」の方にしたところ、現代では団扇の出番は初夏と夏の終わり、猛暑日に団扇であおぐとかえって暑くなりますからと笑顔で言っていただき、ちょっぴり安堵しました。
「伊場仙」の考案した浮世絵団扇は大評判
団扇と扇子が世に広まるのは、和紙や竹などを使い大量生産ができるようになった江戸時代と言われています。江戸団扇や江戸扇子で知られる「伊場仙」は、徳川家康とともに江戸に入った初代の伊場屋勘左衛門の生まれ年、天正十八(1950)年を創業としています。
「伊場仙」本店のあたりは、江戸時代に和紙や竹を扱う店が軒を連ねたとか。
創業時は、埋め立てや治水など日本橋づくりにかかわり、その後は竹や和紙を幕府に収める御用商人に。その材で団扇などをつくりはじめます。江戸後期に十代目の仙三郎は、人気の浮世絵師の版元となり、初代の歌川豊国や国芳、広重などの絵を刷り込んだ「浮世絵団扇」を考案。歌舞伎役者は国芳に、美人画は豊国に、風景画は広重に、と絵師の持ち味を生かした采配で庶民が待ちわびる人気シリーズとなりました。また軽くて薄いため、恰好の江戸土産だったそうです。
豊国木版江戸団扇は、初代豊国の「今様十二ヶ月」(版元伊場仙)。初秋の図(陰暦七月)と清月の図(陰暦八月)のもの/7,000円
晩夏や初秋に活躍する団扇と扇子
日本橋で生まれた江戸団扇。持ち手から骨まで一本の竹を割いて作り、密集する江戸の町で涼をとりやすいように幅広なのが持ち味です。
現在の江戸団扇は丸形も。「竺仙」 の浴衣地を使ったコラボ団扇(大満月)/2,500円、納涼感のある金魚柄(大満月)/2,000円
明治の終わりから大正にかけて作り始めたといわれる江戸扇子。京扇子の職人がつくりはじめたそうですが、分業制の京扇子と違って、すべてひとりの職人が手掛けます。京扇子にくらべて、骨数が少なく骨太なのが特徴です。
役者浮世絵出版差し止めのお達しに、落書きと称し役者絵を描いた国芳の「荷宝蔵壁むだ書き」(版元/伊場仙)/3,800円、前にしか進まない勝ち虫のトンボ柄/5,000円
どちらも大量生産するため、また江戸好みにあわせるため、仕様や製法を変えていったのでしょうね。暑い日が続きますが、晩夏や初秋こそ団扇や扇子の出番。おでかけに江戸扇子、家では江戸団扇、あおげば涼し江戸の風です。
*商品すべて税別、2018年7月現在の価格です。
text・photo:森 有貴子
☎03-3664-9261
営業時間:10時~18時(月~金)、10時~17時(4月1日~9月30日までの土・日曜祝日)
休日:土・日曜祝日(10月以降)
Profile
森有貴子
編集・執筆業。江戸の老舗をめぐり、道具と現代の暮らしをつないだ『江戸な日用品』を出版、『別冊太陽 銀座をつくるひと。』で日本橋の老舗について執筆(ともに平凡社)。落語、相撲、歌舞伎、寺社仏閣&老舗巡りなど江戸文化と旅が好き。江戸好きが高じて、江戸の暦行事や老舗についてネットラジオで語る番組を2年ほど担当。その時どきで興味がある、ひと・こと・もの、を追求中。江戸的でもないですが、instagram morissy_edo も。
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