これぞ、美しい日用品 手ぬぐい「梨園染・戸田屋商店」
江戸時代に日用品として広まった“手ぬぐい”
今年は立秋を過ぎても残暑が厳しいですね。汗をぬぐうのもハンカチでは心もとなく、カバンには常時手ぬぐいをスタンバイ。軽くてかさばらず、さらりとした肌触りの手ぬぐいは、高温多湿な日本にぴったりの日用品です。使い勝手がいいと、周囲にも手ぬぐい愛好者が増えてきている気がします。
昭和レトロ&モダンシリーズ「花ごのみ」、「つばめに柳」、「櫛」/1,200円
手ぬぐいが普及したのは、木綿が一般的になりはじめる江戸の半ば以降。体を洗う、汗をぬぐい、頭に巻いて被り物として使っていました。また役者や力士は、今と同じく名前をいれてご贔屓筋への配りものにしていたとか。生活道具でもあり、ファッションアイテムであり、名刺代わりでもあった身近な日用品でした。
小紋から旬柄まで、400種類以上そろう手ぬぐい問屋
東京・日本橋富沢町は、江戸から明治にかけて太物(木綿)問屋が軒を連ねた町。この町で明治5年、太物問屋として商いをはじめた「梨園染・戸田屋商店」。二代目が仲間たちと考案した「潮染(うしおぞめ)」が話題になり、染め物の製造や卸を手掛ける染め物問屋へと転業。現在は日本橋堀留町にて、六代目を受け継いだ小林賢滋さんが、浴衣や手ぬぐいを中心に商いを続けています。
手ぬぐいに力をいれはじめたのは、三十年ほど前のこと。当時は珍しかった江戸小紋の総柄手ぬぐいを企画します。和雑貨ブームが追い風となり、大型雑貨店などで販売されたことで、新たなファンが増えてきたそうです。江戸小紋、歌舞伎、暦、動植物や旬ものなど、どんどん柄数が増えて今では定番柄だけで400種類あるそうです。
上段左から吉祥紋の「青海波」/800円、厄除けや不老長寿の柄として知られる「鱗文様」と薩摩・島津家が裃に使った「大小霰」/ともに1,200円。判じ絵の「かまわぬ」柄/1,000円、「かまいます」柄/800円
見ざる言わざる聞かざる「三猿」、厄除けの意がある「蟹文様」、ほのぼのタッチの「野菜と果物」、レトロでかわいい「みかん」/1,000円(三猿のみ1,200円)
自転車好きな六代目がデザイン。一台一台モデルにあわせ描いた「自転車」/1,200円
小さな手ぬぐいに込められた、伝統の技と心意気
戸田屋商店の手ぬぐいは、「注染(ちゅうせん)」という明治に生まれた伝統技法で染めています。ひとつの型で多色を染める「差し分け染」、職人の技術で色の濃淡や色ぼかしを演出する「ぼかし染」など、注染ならではの技が小さな一枚に込められています。
毎年、10種類以上の新柄を発表。小紋柄や伝統柄では色で遊び、デザイン柄には落ち着いた色使いを心掛けているとか。最近では、額装して飾るひとが増えてきたので、総柄だけでなく一枚絵のような手ぬぐいも数多く展開。
染めや型作りの職人とともに、手ぬぐいを通して伝統技術や江戸文化を伝えていきたいと話す小林さん。小さな一枚に込められた技と心意気に手ぬぐい愛がますます深まりそうです。
*商品すべて税別、2018年8月現在の価格です。
text・photo:森 有貴子
☎03-3661-9566
営業時間 9時~17時
休日 土日曜、祝・祭日
https://www.rienzome.co.jp
*8反(約100本)からオリジナル手ぬぐいも製作。
Profile
森有貴子
編集・執筆業。江戸の老舗をめぐり、道具と現代の暮らしをつないだ『江戸な日用品』を出版、『別冊太陽 銀座をつくるひと。』で日本橋の老舗について執筆(ともに平凡社)。落語、相撲、歌舞伎、寺社仏閣&老舗巡りなど江戸文化と旅が好き。江戸好きが高じて、江戸の暦行事や老舗についてネットラジオで語る番組を2年ほど担当。その時どきで興味がある、ひと・こと・もの、を追求中。江戸的でもないですが、instagram morissy_edo も。
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