一生モノのつげ櫛で髪美人に「よのや櫛舗」

大人の江戸あるき
2018.09.19

●お手入れ道具でおしゃれ小物の櫛


女性の髪の美しさは目を惹きつけるもの、と『徒然草』に書いたのは吉田兼好。それを引用して「朝はとく(早く)起きて寝乱れ髪を人に見せず、櫛(くしけず)り玉(たま)うべし」と、江戸中期にベストセラーとなった美容指南書『都風俗化粧伝』にも記されています。

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「よのや櫛舗」のなかで人気の高い五寸の梳き櫛。髪型や好みにあわせて荒、中、細と3つの櫛目を用意。(五寸櫛/22,000円)

髪のお手入れ道具であり、結髪に添えるアクセサリーとして、江戸の女性にとって櫛は欠かせない存在でした。櫛笥(くしげ)という化粧箱に、お気に入りの櫛をいれて、手元に置いておいたと言います。

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床山など職人用の櫛や結髪に挿す飾り櫛がならぶ。

 

●代々続く職商人の店、よのや櫛舗


江戸薫る町として、都内随一の観光名所として、賑わう東京・浅草。浅草寺そばの伝法院通りに、つげ櫛専門店「よのや櫛舗」(以下、よのや)があります。享保二(1717)年創業の櫛細工処を継承し、大正初期に初代がこの地に店を構えました。

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与野国(よのくに・現在の埼玉県)の生まれの初代がつけた屋号「よのや櫛舗」。

髪結や床山などの職人が使う櫛から普段使いの梳き櫛や髪留めへ。江戸から受け継ぐ職商人の櫛店を、四代目店主の斎藤悠さんと有都さん夫妻が守ります。

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さまざまな櫛や簪がならぶショーケース脇には作業場がある。職商人とは、職人であり商人であるという江戸の商いのかたち。

「先代の教えを守り、同じように商いを続けるのは厳しい時代です。担い手不足で熟練職人は減る一方。だけど嘆くだけでなく、新たな職人や方法を探す努力は続けています。つげの櫛や簪を途絶えさせないことが、私たちの役目ですから」と店主夫妻。

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つげの簪や髪留を作れる職人はごく僅か。「これをなくしちゃいけない、次へとつないでいく」と斎藤さん。(つげの簪/19,800円~)

 

●つげ櫛がもたらす髪の艶とうるおい


櫛や簪の材としているのが、きめが細かく弾力がある薩摩黄楊。成長がゆっくりで、五寸の櫛がとれる太さに育つまで五十年かかるとか。伐採した木材は、乾燥と燻しを繰り返し、一年半かけて水分を抜きます。反りや曲がりがないことを見極めて、櫛型へと切り出すそう。

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木賊(とくさ)で作った細かいヤスリを使って歯を削りだす。

店内の作業場では、斎藤さんが歯削りや磨きなど最終工程を施します。「髪や地肌に触れるため入念に磨きます。また使い始めから手に馴染むように櫛の両角を丸く仕上げる。初代が考案した形で“よのや型”と呼ばれています」。磨いた櫛を椿油のなかで10日ほど寝かして完成。丁寧に扱えば、二代、三代と使い継ぐことができるそう。

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箪笥の引き出し内で椿油に浸されたつげ櫛。酸化を防ぐために薄い銅板を張ってある。

よのや製つげ櫛を愛用する友人曰く、「梳くと髪に艶がでて、しっとりと潤ってくる」のだとか。また滑らかに仕上げられた櫛は静電気が起きないため、髪がまとまりやすいと言います。長く愛用していていきたいお道具です。

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ぴたっと手に馴染む“よのや型”の梳き櫛。

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浅草の「染絵てぬぐい ふじ屋」で仕立てるオリジナルの櫛手ぬぐい。ステキ!


2018年9月現在の価格です。


text・photo:森 有貴子

よのや櫛舗

東京都台東区浅草1-37-10
TEL03-3844-1755
営業時間 10時30分-18時
休日 水曜(水・木 連休も)
http://yonoya.com/

Profile

森有貴子

Yukiko Mori

編集・執筆業。江戸の老舗をめぐり、道具と現代の暮らしをつないだ『江戸な日用品』を出版、『別冊太陽 銀座をつくるひと。』で日本橋の老舗について執筆(ともに平凡社)。落語、相撲、歌舞伎、寺社仏閣&老舗巡りなど江戸文化と旅が好き。江戸好きが高じて、江戸の暦行事や老舗についてネットラジオで語る番組を2年ほど担当。その時どきで興味がある、ひと・こと・もの、を追求中。江戸的でもないですが、instagram morissy_edo も。

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