選ばれる道具は、わけがある♡ 刷毛&ブラシの「江戸屋」
●徳川幕府から賜った屋号「江戸屋」
塗り、染め、刷り、と江戸のものづくりには欠かせない道具だった刷毛。職人たちの必需品であり、また江戸女子にとってもなくてはならない化粧道具のひとつでした。
日本橋大伝馬町にある、刷毛・ブラシの「江戸屋」。いかにも謂れがありそうな屋号は、腕利きの刷毛師だった利兵衛が、享保三(1718)年に徳川幕府から賜ったもの。
「御用達商人と城にあがり、幕府で入用な刷毛を都合していたそうです。大奥には化粧刷毛を納めていたと聞いています」と十二代目の濱田捷利さん。
大正時代に記された大福帳をめくる十二代目の濱田捷利さん。江戸の大店・小津和紙からの注文も!
●刷毛の技術を生かした逸品ブラシ
着物から洋服、下駄から靴、髷からざんぎり頭と、明治になり暮らしは大きく様変わり。そんななか江戸屋では欧米製の道具、ブラシに注目します。刷毛の技術を生かしブラシを作りはじめ、変化にあわせ生活道具から工業用まで数々のブラシを手掛けてきました。
大正十四年築の木造二階建ての看板建築は国の登録有形文化財。正面の意匠は、刷毛を表しているとか。
三千種類以上の商品を扱っているとは思えない小さな店には、天然素材で作られた洋服ブラシやヘアブラシ、化粧ブラシ、洗浄ブラシ、また昔ながらの刷毛が並びます。用途にあわせて作るうちに品数がどんどん増えていったとか。
天井から吊られた各種ブラシ、ショーケースにずらりと並ぶ洋服ブラシや化粧ブラシ。
洋服ブラシをひとつとっても、ウール用、カシミア用、着物用など種類が揃います。同じ豚毛でも、ウール用はほこりを落としやすい毛根部分を入れて、カシミア用は生地を傷めないように柔らかな毛先部分のみ、と毛を使い分けて植え方を細かく調整します。
「用途にあわせて使いやすい道具をつくる。初代利兵衛の思いとともに、刷毛で長年つちかった技や工夫が、江戸屋のブラシへと受け継がれているんです」。
ウール用、カシミア用、着物用など、用途によって毛や植え方を変える洋服ブラシ。
●週末は江戸を受け継ぐ「べったら市」へ
数ある江戸屋の道具のなかで、私のお気に入りはカシミア用の洋服ブラシです。細く繊細な豚毛を二段植毛したブラシは、静電気が起きにくく生地が傷みにくい。使い勝手がいいのはもちろんですが、そのフォルムがかわいいこと。贈り物としても喜ばれることうけあいです。
毛足の長い豚毛を二段に分けて手植えした洋服ブラシ(18,000円)。『江戸な日用品』(平凡社)より転載。撮影/喜多剛士
さて、店の暖簾と同じく、町の神様「宝田恵比寿神社」を守り継ぐ濱田さん。秋の恵比寿信仰の祭礼とあわせ、伝統行事「べったら市」の保存会・会長として江戸文化の保存に力を注ぎます。「五穀豊穣や商売繁盛を願った恵比寿講とともに、べったら市も江戸後期には開催されていた行事です」。
べったら市の名の通り、三十軒ものべったら漬けの店、日本橋の名だたる老舗、立ち飲み屋台まで、さまざまなお店が出店。江戸屋でも毎年店頭でお値打ちセールがあるそうです。
10月19日(金)・20日(土)は、江戸の老舗と伝統行事をぶらりめぐってみませんか。
*価格はすべて税抜、2018年10月現在のものです。
◆べったら市◆
10月19日(金)・20日(土)12時~22時ごろまで。日本橋大伝馬町「宝田恵比寿神社」周辺に500店舗ほど出店。お神輿や盆踊りも予定。
Profile
森有貴子
編集・執筆業。江戸の老舗をめぐり、道具と現代の暮らしをつないだ『江戸な日用品』を出版、『別冊太陽 銀座をつくるひと。』で日本橋の老舗について執筆(ともに平凡社)。落語、相撲、歌舞伎、寺社仏閣&老舗巡りなど江戸文化と旅が好き。江戸好きが高じて、江戸の暦行事や老舗についてネットラジオで語る番組を2年ほど担当。その時どきで興味がある、ひと・こと・もの、を追求中。江戸的でもないですが、instagram morissy_edo も。
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。