山下りかさん【後編】「誰かのマネではなく、自分の中から出てくるものでどこまでできるか?」
text:鈴木麻子
ときは1990年。『オリーブ』が熱く世の少女たちに支持されていたさなか、山下さんは仕事をリセットし、アメリカへと向かいます。「旅に行くと『もうちょっとここに居たいな、少しの間、暮らしてみたいな』って思うことありますよね? そんな感覚で、何も考えずに『オリーブ』の編集長に『ちょっと行ってきまーす』って」
「ちょっと」のつもりが、結婚をして、子どもが生まれ、かなりの歳月が過ぎていました。ニューヨーク、サンフランシスコと暮らし、たくさんの素敵なものに触れ、刺激をたっぷり受けた山下さん。なかでも、子育てをきっかけに出合ったシュタイナー教育は、後の人生に多くの影響を与えることになりました。
↑ 社会人になったばかりの娘さんと、アメリカ留学中の息子さんが赤ちゃんの時の写真。
シュタイナー教育とは、年齢ごとの発達にふさわしい働きかけによって、健やかで心豊かな子供を育成することを目指した、ドイツの自由かつ創造的な教育方法です。帰国後も、子供たちがシュタイナー教育を受けられるよう、学校の近くに住み、学校の営みに参加しました。
↑ 子供たちが小さいころに買ったはかり。身の回りのいろいろな物を計って遊んでいたそう。
↑ 両端を削って手作りした編み棒。この春から講師を担当する子どもクラスのための試作制作中。
↑ 左と右上は、この春から講師を担当する子どもクラスのための試作、笛袋と針刺し。息子さんがシュタイナー学校の授業で作った針刺し(右下)をお手本に。
↑ イースターエッグは、植物染色をし、ひとつひとつの卵の殻に絵を描いた。こちらは「広尾シュタイナーこども園」で行っている、親子(大人のみも受付可能)のための手の仕事講座のときに作ったもの。
夢中で子育てをし、下の息子さんが小学校1年生になったとき、山下さんはライアーという竪琴に出合います。古代ギリシャから伝わり、20世紀に入って、音楽療法のために作られた、シュタイナー教育でも使われる楽器で、静かに心に沁みこんでいくような、穏やかでやさしいライアーの音色に引き込まれました。「子育てって自分の時間がほとんど無い。でも、ライアーを弾き、音に集中しているときは、自分を取り戻せる時間だなって気づいたんです」。
↑ 膝にのせ、弦をやさしくなでるようにして奏でる。不定期の演奏会や月に一回のレッスンで、ライアリスタとしての活動を展開中。
ファッションの道に進む前は音楽を志していたこともあり、山下さんはどんどんとライアーの世界にはまっていきました。とはいえ、生活の中心は子育て。ライアーを弾き、得意な手芸の仕事を少しずつしながらも、子供に寄り添い暮らしに向き合うことを日々の真ん中に据え、長いこと過ごしてきたのでした。
↑ こちらは弦の数が少ない初心者用のライアー(キンダーハープ)。ピアノの覆いを取り払ったようなシンプルな構造。
――それから、十数年後。今回のインタビューが行われたのは、娘さんが新入社員として社会へと一歩を踏み出す、ちょうどその日でした。「子育てって終わるんだ! ってびっくりしているの」と、山下さんは笑います。「自分の人生にずっとくっついてくるものだと思っていた」子供たちも、立派に独立。寂しい気持ちも一時はあったけれど、二人の人間を育てあげるそのすべてに関われたのは、ものすごい達成感だと胸を張ります。
↑ アンティークの椅子やチェスト、シェーカーボックスなど、長く愛用するものに囲まれ暮らしている。
「これからどうしようかな? って考えているときに、『オリーブ』の編集長に『いってきまーす』って言ったときの20代の自分に戻ったような気持ちになったんです。『さあこれからどうしよう?』っていうワクワクした感覚」
ライアーの演奏、手仕事のこと、やりたいことはいろいろと。これから始まる第二の人生で大切にしていきたいのは、『オリーブ』で培った一球入魂の精神。あのときほどの情熱を携えこれからの人生を生きていきたいと話します。「誰かのマネではなく、自分の中から出てくるものでどこまでできるか? 得意なこと、好きなこと、細々とでも真面目に続けていくことを大切にしたいですね」
↑ 『オリーブ』時代からの友人、スタイリスト大森伃佑子さんのブランド『ドゥーブルメゾン』のために作った巾着かご。とても好評で、すぐに完売してしまったそう。
↑子どもたちが小さいとき遊ぶためのおもちゃとして作った編みぐるみの動物たち。
<『オリーブ』時代の思い出のアイテム>
↑「ウェッジウッド」の業務用カップ&ソーサー。「業務用のものに、とっても惹かれます。そういうところが、“オリーブ少女”なんですよね(笑)」
Profile
山下りか
『オリーブ』のスタイリストとして活動の後、1990年渡米。ニューヨーク、サンフランシスコで生活した後、帰国。在米中にシュタイナー教育に出会い、子供たちをシュタイナー学校に通わせながら、子育て中心の日々を送る。
現在は“手の仕事”の講師、ライアリスタ(ライアーという竪琴の演奏家)として活動。高輪、広尾にあるシュタイナーこども園での「手の仕事クラス」や、「アウディオペーデ」のライアークラス、1年コースで講師を務める。この春からは「逗子シュタイナーこどもクラス」(問い合わせ先zushikodomo@gmail.com)もスタート。また、プレスルーム「alice daisy rose」では、HPの写真とスタイリングを担当。
4月23日(土)には、東京・代々木上原のホール「ムジカーザ」で、仲間とともにライアーの演奏会『NOLA[小さな鐘]のひびき』開催。チケット情報など、詳細はこちらから。
https://www.facebook.com/events/1683977088546846/
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