湯沢薫さん【後編】「創作活動は、深い無意識の中で、“つくらされている”感じなんです」
text:鈴木麻子
雑誌の撮影現場でたくさんの熱を浴び、かっこいい大人たちとドキドキするシーンを作り出してきた湯沢さん。あるときから、モデルという枠を飛び出し、美術家として自分を表現する道を歩むようになりました。
↑ 自身がデザインした「Garment Reproduction of Workers」のブラウスとスカートを着用。「上質な素材を使い、丁寧につくっています」
「中学の教科書で目にしたマグリットにひかれて、それからシュールレアリズムに興味を持ち出したんです。モデル時代、ロケで海外に行っても、他の人たちがショッピングや街歩きをしているとき、私は美術館に行ったり書店でアートブック漁りをしたりしていました」
モデルとして人気絶頂だった1997年に渡米。サンフランシスコのアートスクールでアートを学びました。「それまで私がやっていたことを誰も知らない世界。作品だけで評価をされるのがうれしくて」。3年後に帰国したその年には個展を開催。プロの美術家としての道を歩み始め、十数年が経過しています。
湯沢さんがこだわっているのは、「selcted」の展覧会を催すこと。「日本だと、アーティストがギャラリーを自費で借りて展覧会を開くスタイルも多々ありますが。私はそうではなく、ギャラリーサイドから声をかけてもらって作品を発表しています。ステージを下げずにいい作品をつくっていれば、プロとして続けていくことが可能なのでは? と活動しています」
湯沢さんの作品作りの源は、時折、彼女の頭のなかによぎるイメージ。その「絵」を、具体化するために彼女は絵を描き、写真を撮り、ときには音楽を奏でます。
「歩いているとき、ぼーっとしているとき、ふっとイメージが私の頭のなかに降りてくるんです。そのイメージに近いものをつくるため、私は手を動かします。自分の日常では生まれ得ないものがかたちになって出ていく。完全に深い無意識に潜り込んで、ものができあがるので、見えない力に“つくらされている”という感じのほうが強い気がします。思いもよらないものができることもあるし、イメージ通りのものができることも。そこに近づけるための努力は惜しみません。やっぱり直観はすごい大事ですね」
↑ ギターは湯沢さんのイメージを具現化する大切なツールのひとつ。「宝物であり、一生の友達」と披露してくれたのは、ビンテージのエレキギター。ギブソンのレスポール カスタム。
いま、湯沢さんが着手しているのは、「汐留ミュージアム」で販売するポストカードやカレンダー用の作品。花の写真を撮りため、シーグラスという海辺に落ちている摩耗したガラスに、オーブンで焼いて加工した花を貼りつけた立体作品をつくっています。
↑ 抽象画を描く感覚で、シーグラスに花を貼りつける。花はオーブンで焼くと秒数単位で色が変化していくのだそう。そのさじ加減が難しいと湯沢さん。
アート活動と並行して進めているのが洋服のデザイン。ここ数年では、ガーゼ服のブランド「ao daikanyama」や、ヨーロッパのヴィンテージワークウェアを基に服作りを行う「Garment Reproduction of Workers」にて、洋服のデザインをしています。
「1910年~1940代のヨーロッパのヴィンテージウェアが昔から好きで、コツコツと蒐集しています。それらの魅力は、繊細なレースや刺繍、ピンタックなど気の遠くなるような手仕事。そういうディテールへのこだわりを参考にしながら服のデザインをしています」
↑ 「ao daikanyama」でデザインした服。上/ケープスリーブドレス¥23,400 下/プリーツリボンベルトパンツ¥21,000
↑ 「Garment Reproduction of Workers」でデザインした服。上/TULLE JACKET ¥50,000 下/VINTAGE CIFFON GRTHER SKIRT ¥34,000
↑ ヴィンテージウェアからインスパイアされた服に合わせるのは、ニュージーランドのアンティークショップで見つけた古い腕時計や、20年以上愛用している「GUCCI」のローファー。
絵も写真も、音楽も、服作りも。何かをひとつ生み出すごとに、いま自分が持っているありったけのエネルギーを使っているという湯沢さん。「○○っぽい」「○○みたいな」と、とかくカテゴライズされがちな世の中にあって、湯沢さんが放つ作品は唯一無二な力を放っています。
Profile
湯沢薫
『olive』や『cutie』などの雑誌でモデルとして活躍後、1997年渡米。サンフランシスコのアートスクールにて、アートを学ぶ。帰国後は、国内外の展覧会に参加し、写真、立体、絵画、音楽など、さまざまな表現活動を行う。2015年には初の写真集『幻夢 Day Dream』(HeHe)を出版。ファッションブランド『ao daikanyama』や『garment reproduction of workers 』にて洋服のデザインも行う。 今夏以降には、パナソニック「汐留ミュージアム」のミュージアムショップにて、作品のポストカードやカレンダーを販売予定。活動についてはfacebookにて。https://www.facebook.com/kaoriyuzawaoplace
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。