フォトグラファー・天日恵美子さん【後編】「大切なのは、そこに関わる全ての人がハッピーな気持ちで撮影に臨めること」
ロマンチック、ガーリー、ナチュラル、ヴィヴィッド……。「オリーブっぽい」は、女の子の夢の結晶。その夢を壊さぬよう、最高の一枚を探し続けていた『オリーブ』の作り手たち。先輩方の要求は高く、思いは熱く、天日さんはそれにこたえるのに無我夢中でした。
「ずっと育てられていたんじゃないかな? と思います。『これがオリーブだよね』ってみんなで思いを込めながら、撮影をしていました。『こういう感じ?』ってポラを見せると、『違う、もう一回』っていうのが続いていたのですが、あるときから『そう、これこれ!』って。スタイリストさんが、こう見せたい、これがお洒落だっていうようなことを、毎日毎日教えてくれて、その感覚が少しずつ身体にしみこんでいったんだと思います」。理屈じゃなく、身体で「オリーブっぽい」がわかるようになった天日さん。快進撃の始まりです。
天日さんの撮った写真が、巻頭や表紙を飾ることもザラ。「表紙に使われる写真は、雑誌が発売されてから初めて知ることも多くて、『この写真、いいと思ってもらえたんだ~』って、やっぱりうれしかったですね。スタッフ側が選ぶ写真と、編集長が表紙にいいと選ぶ写真が違うこともよくあったのですが、読者の“いい”を一番理解しているのは編集長だと思うから、私はそれにはいつも、なるほどと思って見ていました」
愛車「フィアット」の助手席でにこり。とにかくハッピーなオーラ全開で、会う人みんなを和ませてしまう。
「『オリーブっぽいって何?』って言われると、言葉にするのは困っちゃう。何でしょうね? 飛び跳ねているだけじゃなくて、動いている感じが好きなんですよね。動いている途中。ハッピーで自由な感じ。一番大切なのは『かわいい』。誰が見てもかわいいを探すんです」
『オリーブ』で「絶対的なかわいさ」を求めて、十数年。天日さんは、女の子の「かわいい」を引き出すスペシャリストとなっていました。フリーランスとなったいまでは、たくさんの女性誌を中心に活躍。とくに、女優さんのはっとするような表情のポートレートで、「天日恵美子」のクレジットを目に止める方も多いのではないでしょうか?
愛用する機材たち。テクニックはもちろん、気持ちの交わりを大切にするのが、天日さんの撮影現場。
「俳優さん、タレントさんのポートレートの仕事、多いですね。人が好きだからかな? スタジオに入ってきた瞬間に、彼らの気分がわかるんです。今日はあんまり話しかけないほうがいいかな、ちょっと疲れていそうだからスピーディに撮ったほうがいいかなとか」。その人が心の奥底にためている思いや、笑顔の下に隠している表情をふっと引き出し、本人もびっくりするような瞬間を切り取る。この力は、あの『オリーブ』での日々があってこそ。場の雰囲気、人との間。それらをいつも考え、カメラに収める訓練は人一倍積んできた天日さんです。
「フィルムからデジタルに変わって、いろいろなことがパソコン上でできるようになっていますが、私はデータの調整はあまりしないんです。普通に撮って、後はそんなにいじらない」
「写真の加工にこだわって、あれこれいじればいじるほど、感動してもらえる写真にはならないかもよ」とは、『オリーブ』時代のカメラの師匠の言葉。「そのときの空気感が大事。撮影現場の興奮をそのまま撮ってそれを見せるだけでいい。撮った写真、そのもので感動させなきゃダメだよって教えてもらいました」
「こんなのあったよ」と持ってきてくれた、『オリーブ』のノベルティのテレホンカード。仲瀬朝子さんのイラスト、懐かしい!
天日さんが撮影現場で大事にしていること。それは、そこに関わる全ての人がハッピーな気持ちで、撮影に臨めるようにすること。それが自ずと読者もハッピーにする。「いやな気持ちにさせたら、いい写真なんてひとつも撮れないですからね。向こうが引いたときは、こっちも引く。私が出たほうがよさそうだったらガンガン行く。それは、レンズを覗いて何枚か撮ったら、見えてくるんです」
どんな有名な人が来ても緊張しないし、相手の空気にのまれないと、あっけらかんと話す天日さん。「『今日の撮影はどんな感じにする?』って聞かれたら、いつでも『こうしたい』って言えるようにしています」。自由な人はその勢いそのままに、心が閉じている人は少しずつ心を緩ませながらシャッターを押す。「その人を読むっていうのが大事」だと天日さん。それは、『オリーブ』のときのヒリヒリするような、魂を削るようにして写真を撮っていた、あの撮影現場の経験が生きているのです。
アシスタントさんとも、友達同士のような自由な雰囲気で接する天日さん。撮影現場では「てんちゃん」と、親しみを込めて呼ばれる。
Profile
天日恵美子
マガジンハウスに1991年入社。写真管理部、ポパイ編集部を経て、オリーブ編集部に長年所属。巻頭ファッションページ、雑貨企画、有名人ポートレートはもとより、小沢健二さんの名物連載「ドゥーワチャライク」などの撮影も担当。2010年よりフリーランスに。女性誌を中心にファッション、ビューティー、インタビューなど、見る人をキュンとさせる「かわいい」写真を撮る。
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。