元編集長・遠山こずえさん【前編】「雑誌作りは“おもしろがり”の精神で」
そばかすがチャームポイントになることも、かごのかわいさも、公園で食べるサンドイッチのおいしさも。大事なことはみんなオリーブに教わった。80年代、90年代、少女たちに熱狂的に支持された雑誌『オリーブ』。その熱狂をつくり出していた、素敵な先輩を訪ねてきたこの連載。今回でいよいよ最終回です! ラストにふさわしいゲストは、1990年代に編集長として活躍された遠山こずえさん。憧れの先輩を訪ねて、山形・鶴岡に向かいました。
text:鈴木麻子
「ふわっとした重ね着コーディネートも好きだし、かっちりしたマスキュランな雰囲気もいい、たまにはフリルやレースを効かせて女の子気分にも浸りたい……」。「私はこんな着こなしが好き!」とブレのない人に憧れるけれど、今日も私はふらりふらり……。おしゃれに限らず、定まっていないのです、方向性が。
統率のとれていないクローゼットを前に、途方に暮れることもあるけれど、そんなとき「それでもいいんじゃない?」と肩を叩いてくれる古い友人がいます。『オリーブ』です。元・編集長の遠山こずえさんも、インタビューの冒頭、こんなことを話してくれました。
↑ 東京を離れ、かれこれ十数年暮らす、山形・鶴岡の出羽三山神社付近にて。「私の大好きな場所を案内するわね」と、取材スタッフにもとってもフレンドリー。
「まだ駆け出しの編集者だったころ、会社(マガジンハウス)の先輩とお茶を飲んでいるときに、『雑誌にとって一番大切なことは何だと思う?』って聞かれたの。それで、その人は『スタイルだよ』って。そのとき、そうかー!って思ったのね。スタイルさえ決まっていたら、どんな題材を扱ってもいいし、どんな人に取材してもいいわけでしょ。“これはオリーブではない”ではなくて、“これもオリーブ”にしちゃえばいいのよね? 雑誌って、雑多なものが詰まった誌面のことをいうんだから、特別じゃなくてもいいのよね」
なんと軽やかで、柔らかな。
多感な時期の私たちの心をとらえていた雑誌『オリーブ』は、こんなおおらかな気持ちでつくられていたのです。そのおおらかさは、遠山さんそのもの。緊張する私たち取材スタッフにガバっと心を開いてくれる、あったかなオーラをまとった人なのでした。
↑ キャラクターの「オリーブオイル」みたいな雰囲気の遠山さん。編集長時代に手に入れたというストローハットは、「マーガレットハウエル」のもの。「何十年も前から愛用していてボロボロだけど、この形が理想形なの」
「最初は編集者としてオリーブ編集部に配属されたのね。それから、数年後に編集長になりました。オリーブ時代はすんごい楽しかったの! 楽しくて楽しくて、なんだか部活みたいだったな~。部活だから燃えたんだよね~。ひとつの同じ船に乗っているみたいな。プライベートで仲いいとかではないんだけど、スタッフみんながひとつだったんだよね」
↑ 「オリーブらしいと思うもの」として持ってきてくれたオリーブ時代からの愛用品。上は「ズッカ」のベスト。「色使いがお洒落でしょう?」。シャツやTシャツに合わせたり、いまでもよく着ている。下は、取材先で出合った人形と、とあるブランドの展示会でシーズンごとにもらっていたテディベア。
ニカッと笑う遠山さんは親密感たっぷりで、「こんなリーダーだったら、きっと楽しい職場だったんだろうな~」と容易に想像できます。頼りになる編集長だったんでしょうね、そんなことを伝えると、遠山さんは「そんなことないのよう~」とまたまたニカッ。
「私は教わったことのほうが多いんです。すごく人に恵まれていたのね。編集って遊んでいるようでいながらも、ちゃんとそれを企画にしてページを作らなければいけない。おもしろい編集者やスタイリストたちが、魂を込めつつ、楽しみながらページをつくる。私はそれを見守っていただけ。自分が何かに秀でていたとは全然思えないけれど、なんかやるときにアツイ思いは常にあったのね。古臭いタイプだよね。むき出しだったんだと思う。そこだけじゃないかなあ? ただね、おもしろがるとか、好奇心はすごいあったのよ」
↑ 『オリーブ』の別冊として出版していた本や写真集。一番右は、『オリーブ』の付録の占い本、その名も「ハッタリくん」。
おもしろがり。なんと前向きな言葉でしょう。あれもこれもおもしろがって、『オリーブ』はたくさんのピカピカ真新しいセンス、カルチャー、ライフスタイルを私たちに紹介してくれていました。
「『オリーブ』ってすごいなって思うのが、『かわいい悪趣味(悪趣味には「エスプリ」というルビがふってありました!)』っていう派手なファッションのテーマをやったかと思うと「ナチュラル・スタイル」を特集して。同じ雑誌で、一見相反する特集をするなんて変わっているでしょ? でも、それも『オリーブ』らしさなんだと思う。だって、人間ナチュラル・スタイルばかりじゃ飽きるんだもん。日頃はナチュラル・スタイルかもしれないけれど、たまには外したこともしてみたい。かわいい悪趣味(エスプリ)も、ナチュラル・スタイルも、一人の女の子の中にいるわけだから。そういうことが雑誌でできるのが楽しかったですね」
↑ 鶴岡に来て、手芸に目覚めたという。バッグはフリーハンドで作ったもの。ニット帽は、編みもの作家・三國万里子さんの本を見ながら編んだ。
第1回 大橋利枝子さんはこちらから
第2回 堀井和子さんはこちらから
第3回 山下りかさんはこちらから
第4回 湯沢薫さんはこちらから
第5回 大森伃佑子さんはこちらから
第6回 山村光春さんはこちらから
第7回 石川博子さんはこちらから
第8回 天日恵美子さんはこちらから
第9回 山崎まどかさんはこちらから
Profile
遠山こずえ
1981年マガジンハウス入社。「アンアン」編集部を経て「オリーブ」編集部へ。1991~1997年の間、編集長を務める。2000年、夫の転勤に伴い、マガジンハウスを退社し、山形・鶴岡へ移住。1997年よりフラをはじめ、2009年「ナー キエレ オ カ ラニ」(西喜久枝氏・主宰)の山形教室「スタジオ ハレ キエレ」をスタートさせる。ニックネームは「金さん」(苗字が遠山だから)。
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