身体も心もほっとするやさしい料理 vol.2
ファッションやアートに興味があり、服飾の専門学校に通っていた時期に、前述の病気で体調を崩し中退。それをきっかけに「身体についてもっと学びたい」という欲求が高まり、東洋医学の専門学校へ。25歳のとき、「穂高養生園」にて菜食を学び、東京・ロンドン・タイではマッサージの勉強をしてきました。「ていねいに、」をスタートするまでも、マッサージサロンに勤務しつつ、飲食店でも働いて……。cayocoさんの経歴を伺っていると、「料理を作ること」「身体を癒すこと」が自転車の両輪のような存在として結びついている様子です。
「セラピストとして大切なのは、施術する側が『治してあげよう』と考えるのではなく、こちらが受け皿となって、その方の身体が『どうなりたいか』、身体からの声に耳を傾けることだと思っています。この『耳をすます』というのが、料理もまったく同じで、私の料理は、手にした素材がどんな風になりたいのか、感じることから始まります。もしかしたら、料理をしているときのほうが、セラピスト的な感覚が強く出ているかもしれません」。
たとえば同じ大根でも、走りの10月頃から名残りの2月まで、畑から届くたびに状態は違うもの。みずみずしくジューシーな時期、水分量が少し減って味が濃くなる時期では、ふさわしい料理法がそれぞれ変わってきます。
「実は料理の腕には全然自信がないのですが、素材がいいものなので、安心しているんです。『自分の力で上手く料理してやろう』と思うと我が出てしまうけれど、ただひたすら素材に寄り添って、素材の魅力を届ける人になろうと考えていれば、無心になれるんです」
そして五感をフル稼働して、「よりおいしく食べるためには、どうしたらいい?」と素材に入り込んでいくと、料理することそのものが、自分にとってはセラピー、心のマッサージになるとcayocoさんは言います。
そういえば、先日私が参加したとある勉強会でも、「料理する人は、瞑想をする必要がない」という話を伺いました。料理を家事的な義務ではなく、感覚を研ぎ澄まし、集中する「行い」のようにとらえれば、それが瞑想のような大きなリフレッシュにつながる、というのも何となく分かるような気がします。そしてそんな風にして作られた料理たちはきっと、惰性でイヤイヤ作ったものとは違い、力強く、身体にエネルギーをもたらしてくれることでしょう。
cayocoさんの話を伺い、しっかりとした手元を見つめていると、ここのところ忙しさにかまけて慌ただしく料理をしていた自分を思い出し、ちょっぴり、いやいや、かなりの反省をしてしまいました。「料理は、作る人自身のセラピーになる」。そうやって意識を変えていけば、毎日の料理が少しずつ変わっていきそう。心の“床の間”に、掛け軸として飾っておきたいお言葉です。
セラピストとしてマッサージをしていると、「心がゆるんだ瞬間、身体もゆるむ」ということを、何度となく体験するそうです。心にすき間ができると、血行がよくなり、体温も上がり、結果的にコリがとれたり免疫力も上がったりする。もしかして料理もこの「心がゆるむ」「ほっとする」ことのツールになるのではないか……そんな思いも、より意識が料理へ向かう出発点でもあったそうです。
「20代の頃、しばらく働いていた東京・目白にある喫茶店で、初めてカプチーノを飲んだとき、肩こりがすーーっと楽になったことがあるんです。たとえばマクロビオテックの世界では、『コーヒーと牛乳なんて!』という存在なのですが(笑)、そのときの私には、とてもていねいに淹れてくださったその一杯が、ものすごくよく効いたんです。心に美味しいものは、身体にもよく効く。知識として食べ物について学ぶことも大切ですが、『あれはダメ』『これはダメ』と頭で線引きするのではなく、心や身体の感覚にしたがって食べることが大切なのだと思い至りました」
「ていねいに、」で使われている食材たちは、信頼できる作り手から届いた、身体に安全なものばかり。店内の入口横にも、店の料理で使っているおすすめ食材が販売されています。毎日のごはんは、安心して、ほっとひと息つけるようなものがいい。そのほっとする安心感の先に、「健やかさ」がつながっているのでしょう。
photo:砂原 文 text:田中のり子
第1回「頭も心もとろんとろんになるヘッドマッサージ」はこちらから
第2回「身体にふれることで、ありのままの姿を観察し認識するセラピー」はこちらから
第3回「身体を土台から整えていく、究極のインソール」はこちらから
第4回「天然ヒノキ&酵素のチカラで、ツルツルほかほか」はこちらから
第5回「家庭の薬局として、はちみつを見つめ直す」はこちらから
第6回「腸活は、自分の体質に合ったものを!」はこちらから
第7回「生理&骨盤底筋トレーニングで、明るく体と向き合う」はこちらから
第8回「自分を知ることで自己治癒力を引き出すホメオパシー」はこちらから
第9回「冷えとり歴 23年目の、冬の過ごし方」はこちらから
第10回「心に効くから、からだも思考も変わるフラワーエッセンス」はこちらから
第11回「古くて新しい、お灸の魅力を再発見」はこちらから
東京都杉並区西荻南1-18-11
TEL:090-3452-3354
営業時間:【食】火18:00~21:00(LO)、水~金9:00~14:00(LO)、18:00~21:00(LO)、土・日12:00~16:00(LO) 【セラピー】10:00~21:00
定休日:月曜
http://teineini.com/
Profile
cayoco(かよこ)
マッサージサロン、飲食店勤務などを経て、「食とセラピー ていねいに、」のゆるタイマッサージ、リフレクソロジー、平日の朝ごはん&昼ごはん担当に。東日本療術協会認定セラピスト、タイ文部省認定タイ古式ライセンス取得。現在、旅のレシピ本『foodleters』を制作中。
田中のり子
衣食住、暮らしまわりをテーマに、雑誌のライターや書籍の編集を行う。『ナチュリラ』(主婦と生活社)は創刊当初からのスタッフ。構成・執筆をした『これからの暮らし方2』(エクスナレッジ)が好評発売中。
肩の力を抜いた自然体な暮らしや着こなし、ちょっぴり気分が上がるお店や場所、ナチュラルでオーガニックな食やボディケアなど、日々、心地よく暮らすための話をお届けします。このサイトは『ナチュリラ』『大人になったら着たい服』『暮らしのおへそ』の雑誌、ムックを制作する編集部が運営しています。